Windows、エクセル、ワード等々私たちが日頃当たり前のように仕事で使っているソフトウェアを提供している会社であり、ご存知米国IT業界の巨星であるマイクロソフト社が、税務調査の過程におけるIRS(米国内国歳入庁)との争いについて最近メデイアで頻繁に報道されています。それら一連の記事を整理し、以下簡単にまとめてみました。
背景:移転価格税務調査
マイクロソフトはIRSより2004-2006年度に関して未だに税務調査を受けています。米国における税務調査の時効は通常3年ですが、IRSが延長に次ぐ延長で税務調査を引き延ばしているようです。その主な対象は同社がプエルトリコ(米国自治連邦区)と英領バミューダにある子会社との間で行っていたコストシェアリング取引(研究開発費等無形資産創出に貢献した費用を関連会社間で分担する取引)です。IRSの思惑通りに最終的に課税が行われれば、マイクロソフトの所得更正額は数十億ドル(数千億円)単位になる模様です。
マイクロソフトが情報公開法に基づく請求
マイクロソフトは2014年9月22日にIRSに対し情報公開法に基づく情報請求を行いました。内容は、IRSが2004-2006年度の同社に対する税務調査に関して民間の法律事務所と約2百万ドル(2億円以上)で締結したサービス契約内容についてです。税収によって成り立っている政府組織が、しかも財政危機の状況下でこのような高額の契約を民間と結ぶに当たっては相応の情報公開の義務を負うべきとの主張です。それに対しIRSからの回答が遅延していたことから、11月24日付で同社は同情報公開の履行を求め連邦地方裁判所に提訴しました。
IRSがsummonsの執行を求めてマイクロソフトを提訴
IRSは2014年10月30日付でsummonsをマイクロソフト宛てに発行しました。Summons(召喚状)とは税務調査における任意の質問状等に対し納税者の協力しない場合に発せられるものです。今回のsummonsにてIRSは、市場調査、研究開発、財務計画等に関する約50種類の文書を11月20日までに提出するよう要求しました。それに対しマイクロソフトは期限日の11月20日付で、当該summonsの要求は内容が曖昧で、範囲が広過ぎて過度の負担を要し、しかも機密性の高い資料の提出を含んでいる為、それら請求資料の一部しか提出には応じられないと応酬しました。その為IRSは12月11日付でsummonsの強制執行を求めてマイクロソフトを連邦地方裁判所へ提訴しました。
マイクロソフトが裁判所へ申立(1)
上記のIRSによる提訴を受けマイクロソフトは2014年12月18日、連邦地裁に対し、現状確認と今後の進行に関する協議(status conference)の開催を申立てました。申立において同社は、既にIRSに対し計130万ページに及ぶ資料を提出したにもかかわらず今回IRSが更にsummonsを発行してきたのは、既に約8年間延長されてきた税務調査時効年度を再延長するための方策であり容認し難いと非難しました。
IRSのマイクロソフト申立に対する異議申立
IRSは2014年12月24日付で、マイクロソフトが行った上記申立の却下を求める異議申立を連邦地裁に申請しました。またIRSが同社に対し上記以外にも多数のsummons発行(その中には前CEOのスティーブ・バルマー氏を含む現職やOBの経営陣への召喚状も含まれている)及びそれらsummonsの強制執行の訴えを12月11日以降も次々と行っていました。
マイクロソフトが裁判所へ申立(2)
マイクロソフトは2014年12月31日付で、IRSが同社、その経営陣(前職含む)及び税務アドバイザーに対して発行し強制執行を訴えた計10のsummonsについて、それらは全て上述した移転価格税務調査に基づいているため統合するよう連邦地裁に申立を行いました。
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税務調査でIRSから追徴課税を受けた後にそれを不服として税務訴訟を起こすのが通常のパターンですが、今回は課税前の税務調査中の段階でガチガチのバトルが展開されているという異例の展開となっています。それにしても個人的見解ですが、8年という長い調査期間や、訴訟専門の法律事務所を訴訟前の局面で2億円以上かけて雇うなど、IRSのやる事は公正さを欠くような気がしてなりません。
米国公認会計士 三村琢磨(2015年2月)