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《国際税務》 米中貿易戦争に関する第1次段階合意

米国公認会計士 三村琢磨

2018年に米国が仕掛けて始まった米中貿易戦争は、2020年1月15日に両国が「第1段階の貿易合意」に署名し、それまでエスカレートする一方であった関税引上げ合戦がひとまず一服しました。しかし下記表のとおり、未だリスト4の関税引下げ(リスト4Bは取消し)のみにとどまっており、大部分の上乗せ関税が残っています。そもそも、自国にもはね返りがあることは承知の上で敢えてこの貿易戦争を仕掛けた、経済大国として台頭著しい中国を懲らしめたい米国現政権の意図及び大統領選を見据えたトランプ氏の思惑を考えると、今後行われる第2段階合意に向けた協議も楽観視できず、米中間の関税率が元の水準に戻るまでには相当な時間がかかりそうです。尚、多くの日系企業も、中国子会社で作った製品を米国に輸出している為、米中貿易戦争は日本経済にも悪影響を及ぼしています。
(米国通商法301条に基づく中国からの輸入品に関する追加関税リスト概要表:第1次段階合意迄)

(上記表のリスト4A、4Bにおける下線部分が第1段階合意における米国の減免措置)
今回の第1段階合意の背景として、リスト4の製品(特に殆どが中国で作られているアップル社のiPhone)に関税を上乗せすることによる自国の企業及び国民への悪影響を米国が配慮したと推測されます。一方、本合意において中国側は主に関税以外での知的財産権保護、金融サービスの開放等の譲歩を行っていますが、最大の目玉は今後2年間で2,000億米ドルの製造品、農産物、エネルギー製品およびサービスを米国から追加購入すると約束した事です。しかし、数字が大きすぎる事もあってその実現性には懐疑的な報道が多く、確かにこれは中国による時間稼ぎ戦略かもしれません。
(米中貿易戦争以降の両国の貿易収支)

米国は対中を含む貿易赤字を2019年に若干ながら減らしており、これを“成果”としてアピールしています。一方中国の輸出は対米の減少にもかかわらず全体では減っておらず、貿易黒字が更に増加しました。何れにせよ両国の貿易縮小が世界経済に与えたマイナスの影響は大きく、日本の貿易額も2019年は輸出入共に約5%減少しました。今年に入ってから新型肺炎の流行がアジア経済を直撃していますが、貿易戦争も並行して続く事により、中国のみならずグローバルな景気減速の深刻化が懸念されます。

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