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英国が先導する大手IT企業への課税

米国公認会計士 三村琢磨

 英国のハモンド財務相は2018年10月29日の予算演説において、大手IT企業を対象とするデジタルサービス税(Digital Services Tax、以下“DST”)を2020年4月より導入し、年4億ポンド(約580億円)以上の増収を目指すと表明しました。
背景
 バミューダ、アイルランド及びオランダを組み合わせた巧妙な節税スキームが最初に発覚したGoogle(現Alphabet Inc.)をはじめ、Apple、Amazon、Facebookなど米国系大手IT企業は軒並み同様な節税を行い、本国の米国以外では殆ど法人税を払っていないと言われています。それら企業は、例えば日欧などの主要国ではアイルランドやシンガポールなど国外の関連会社がメインで事業を行う形を取る為、売上及び利益の殆どは国外関連会社が計上します。一方、自国の拠点は補助的な業務しか行っていないとして僅かな利益しか計上しておらず、利益に課税する現行の法人税体系では各国とも(それら企業が自国で巨大な利益を稼ぐにもかかわらず)殆ど税金をとれていない状態です。欧州各国ではそれに対する批判が高まっており、欧州連合(EU)の欧州委員会では今年3月、一定規模以上のIT企業によるオンラインによる広告、交流サイト・販売市場の提供等によるEU域内の売上の3%を課税するというDST指令案が提案されましたが、アイルランド、ルクセンブルグ等、大手IT企業の節税スキームの恩恵を受けている国の反対により実現のメドは立っていません。そのような中、来年3月にEU正式離脱を予定している英国が、EUに先駆けDST導入計画を具体化させました。
英国DSTの概要(英財務省HP抄訳)
(但し例、円換算額等のカッコ書きは筆者注)
 DSTは、特定のオンライン・ビジネスモデルで且つ英国のユーザー参加により得られる収入の2%を課税する。特定のビジネスモデルとは、検索エンジン(例:Google)、交流サイト運営(例:Facebook)、及びマーケットプレイス運営(例:Amazon)を指す。英国政府は、これら3つのオンライン・ビジネスモデルがユーザーの参加により大きな価値を得ていると考える。
 DSTは商品のオンライン販売自体に課税されるものではなく、そのような販売を仲介することによる収入にのみ適用される。また、オンライン広告やデータの収集に関する一般的な税金でもなく、あくまで上記3つの特定ビジネスモデルのみが課税対象である。DSTが課税されるのは、例えば以下の場合である:
・ 交流サイトが英国ユーザーをターゲットとする広告により収入を得る場合
・ 英国のユーザーとの取引を成立させることによりマーケットプレイスが手数料収入を得る場合
・ 検索エンジンが、英国のユーザーが入力したキーワード検索結果に対し広告を表示して収入を得る場合
更にDSTは以下のような特徴を有している:
・ 二重の基準値: DSTの課税対象は、上記特定ビジネスモデルの内、全世界で£5億(約720億円)以上の収入を得ている事業の、英国関連収入である。但し英国関連収入の内£25百万(約36億円)までは課税対象外であり、中小事業が対象外であることを示している。
・ セーフ・ハーバー: 利益率が著しく低い企業のDST支払負担を減じる税額算定方法の選択を可能にする。この算定方法は今後発表される。
・ レビュー: 英国政府は2025年に、それ以降もDSTが必要か否かを決定するため、DSTを再審査する。適切な国際的解決策(例:OECD主導による各国共通のDST実施)が2025年より前に実施されている場合、英国独自のDSTは廃止し、国際的ルールに従う。
・ DSTは、英国法人税上通常は損金に算入されるが、租税条約の対象ではない為、法人税からの税額控除はできない。
・ 金融・決済サービス、オンラインコンテンツ提供、ソフトウェア/ハードウェア販売、及びテレビ/放送サービスはDSTの対象外。
所見:英国の存在感と日本の現状
 金融立国で、且つ海外領土にバミューダ、ケイマン等多くのタックス・ヘイブンを有するなど、ハイテク企業にも親和的なイメージがある英国ですが、実は租税回避防止については先進的です。既に2015年には、節税スキームにより英国を迂回させた利益に対し25%の法人税(通常の法人税率は現在19%)を課する「迂回利益税」を導入済ですが、今回は更に大手IT企業に焦点を絞ってDST導入を一早く表明しました。EU案の3%よりも低率である等遠慮がちながらも、オンライン・ビジネスモデルが税を逃れている明らかな不公正状態を打破すべく勇気ある措置と言えます。翻って日本でも、巨額な利益をあげているオンライン・ビジネスモデルへの膨大な課税漏れ状態が続いていると思われます。国内企業、中小企業を税務調査でいじめる前に、税収確保と課税の公正を保つ為には、日本もまずこの大きな問題に率先して取り組むべきではないでしょうか。

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