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下院の個人所得税に関する税法改正案

下院の税法策定委員会 (House Ways and Means Committee) によって発表された税法改正案 (The Tax Cut and Jobs Act H.R.1) の個人所得税に関する部分には次のようなものがあります。

• 税率 – 税率は基本的に4つの税率, 即ち,12%, 25%, 35% , 39.6%になります。新しい経費控除額に満たない人は税金申告書を提出する必要はありません。

• キャピタル ゲイン税 – キャピタルゲイン税率は所得の額によって三つの税率に分けられます。通常の税率が15%以下の人の場合、キャピタルゲイン税率は0, 20%以下の人の場合は15%、 それを超える人の場合は20%の税率になります。15%の分岐点は夫婦合算申告者の場合、77,200ドル、独身者や夫婦個別申告者の場合は38,160ドル、扶養主の場合51,700ドルになります。20%の分岐点は夫婦合算申告者の場合479,000ドル、独身者の場合425,800ドル、又、夫婦個別申告者の場合239,500ドル、扶養主の場合452,400ドルになります。

• 標準控除額 (Standard deduction) – 標準控除額 は2018年から増額になります。これは個別控除 (Itemized deduction)の多くが廃止されることに対応するものです。独身者の場合、6,350ドルから12,700ドルに引き上げられ、夫婦合算申告者の場合、12,700ドルから24,400ドルに引き上げられます。独身者で子供が一人いる場合、18,300ドルになり、これらは2019年からインフレ修正されます。

• 人的控除 (Personal exemption) – 人的控除は2018年から一人当たり4,050ドルになります。

• パートナーシップ、有限会社 (Limited liabilities companies) 、S法人から得られるビジネス所得の一部に適用される税率 – これらの組織のビジネスに関連する税率が2018年から25%になります。しかし、概略、所得の内30%がこのビジネス所得とされて25%の税率が適用され、その他は通常の税率を課されます。利子、配当など消極的所得 (Passive income) には25%の税率が適用されます。しかしこの30%のビジネス所得識別率の代わりに、もし実際の資本比率 (Capital percentage) で計算する方がビジネス所得の割合が高くなる場合にはその率を使っていいことになっております。資本比率とは、連邦の短期金利レートにオーナーの出資額に7パーセント ポイントの率を掛けた率を合計した率になります。ネットキャピタルゲイン、適格配当所得、短期キャピタル ゲインなどは所得から除外されます。これらの組織のオーナーが自分の給与をビジネス所得に変更しがちになるのを防ぐために、実際の給与が資本比率を上回る場合には資本比率は制限されます。ヘルス、法律、エンジニアリング、建設、会計、年金数理、芸術、コンサルテイング、スポーツ、金融サービス、ブローカー業などの場合、25%の税率を適用されるビジネス所得に該当するものは無しとされます。

• 経費控除 (Deductions)
税法68条の個別控除の限度設定は2017年以降に始まる年度から廃止されます。更に次の個別控除項目が廃止されます。
医療費控除 (Medical expense Section 213)
慰謝料控除 (Alimony deduction Section 215)
災害損失控除 (Casualty and theft loss deduction Section165 ©(3)特別災害は例外)
税務申告書作成費用控除 (Tax preparation fees Section 212(3))
移転費用控除(Moving expense Section 217)
アーチャー (Archer)医療費の貯蓄の為の拠出金費用控除 (Contributions to Archer medical saving accounts Section 220)
慰謝料控除の廃止は2017年 12 月31日以降の離婚や別居に適用されます。
従業員経費 (Employee expenses) – 従業員の経費は通常は会社に請求するのが普通ですが、会社に請求できないが自己負担で経費を払う場合があります。このような費用は会社の為に使ったことは事実ですからビジネス経費として税金申告書上で控除出来ました。しかしこれらの従業員経費が廃止されます。そのほか芸術家や小学校、中学校の先生が払う資材費用も2017年以降に始まる年度から廃止されます。
住宅ローンの金利 (Mortgage interest) – 住宅ローンの金利は従来と同じく控除できます。2017 年11 月2日以降に発生した住宅ローンの金利控除に関しては住宅ローンの金額が110万ドルから50万ドルに減額されます。それに応じて金利も減少するわけです。更に住宅ローンは1戸だけに限られます。
慈善団体に対する寄付 (Charitable contributions) – 従来、現金による寄付については50%の限度額がありましたが、この限度額が2017年以降に始まる年度から60%に引き上げられます。大学の運動競技の座席を確保するために寄付をしてその寄付額を控除していたのが廃止されます。慈善活動のために車を利用した場合、1マイルにつき14セントの割合で経費控除できますが、この経費控除はインフレ修正はできません。
250ドル以上の寄付金の場合、証明書が必要とされていましたがこれが廃止されます (Section 170 (f) (8)) 。
州税や地方税の控除 (State and local taxes) – ビジネスを行うために払った州税やセールス タックス (物の小売販売に掛けられる消費税)は控除できますが、それ以外の州税や地方税の控除は廃止されます。不動産税 (State and local property tax)は引き続き控除できますが、1万ドルまでになります。2017 年12 月31日以降に始まる年度から適用されます。
税額控除 (Credits) – いろいろな税額控除が廃止されます。例えば養子関連税額控除 (Adoption tax credit)、65歳以上の高齢者や完全身体障害者に関する税額控除 (Sec 22 credit for individuals over age 65 and the permanently and totally disabled)、住宅ローンクレジット証書に関する税額控除 (Credit associated with mortgage credit certificates)、電気自動車に関する税額控除 (Credit for plug-in electric vehicles)などがその例です。
子女税額控除 (Child tax credit) – 子女税額控除額は一人当たり1,000ドルから 1,600ドルに増額になります。最初の1,000ドルは納税者に還付されインフレ修正されますが、1,600ドルが上限となります。還付請求するためには社会保障番号 (Social security number)が必要です。それから一人につき300ドルの家族税額控除が開始されます。夫婦合算申告者の場合には配偶者と子供にも適用されます。子供の分は2022年以降廃止されます。
教育関連税額控除 (Education) – アメリカの機会税額控除 (American opportunity tax credit)、ホープ奨学金税額控除 (Hope scholarship credit)、生涯学習税額控除 (Lifetime learning credit)は一つにまとめられ、高等教育に関連する教育費の2,000ドルまで税額控除を与え、その次の2,000ドルには25%の税額控除が与えられます。適用は2017年以降に始まる年度からです。還付を受ける部分については社会保障番号が必要になります。カバーデル教育貯蓄勘定 (Coverdell education savings account)に対する拠金の控除は2017年以降は廃止されますが、セクション529へのロールオーバーは認められます。セクション529条が改正され、1万ドルまで小学校、中学校の授業料への支払いが認められます。教育ローンの金利の控除 (Section 221)、授業料控除 (Section 222)、高等教育のために使ったアメリカ合衆国の国債の金利が所得から除外される(Section 127)ことなどが廃止されます。
その他の所得からの除外 (Miscellaneous exclusion) – 主たる住居の売却に際しての売却益は従来、夫婦合算者の場合、50万ドル (夫婦個別申告者や独身者の場合25万ドル)まで所得から除外することができましたが、条件として過去5年間の間最低2年間住んでいることが義務ずけられておりました。これが売却前の8年間の間、少なくとも5年間の居住が義務ずけられます。除外する額も漸減していきます。この適用は2017年以降の年になります。そのほか所得から除外されていた従業員の成功褒章額 (Employee achievement awardsの除外 – Section 74)、扶養者介護援助プログラムの除外 (Exclusion for dependent care assistance program – Section 129)、移転費用の払い戻しの除外 (Qualified moving expense reimbursements – Section 132)、養子縁組援助費除外 (Adoption assistance programs – Section 137)が廃止されます。更に雇用者の便宜のために提供された住宅の除外、教育費の除外 (Housing provided for the convenience of the employer and for employees of educational institutions – Section 119)の額が5万ドルまでになります。夫婦個別申告者の場合には25,000ドルになります。年金関係では、確定拠出年金 (Defined benefit plan)の支給年齢が62才から59才と6ケ月になります。
その他の改正 – 代替ミニマム税 (Alternative minimum tax – AMT)が2017年以降の年から廃止されます。この税金は、昔金持ちがいろいろな節税策を使って税金を払わないのを防ぐために始まりましたが、その後のインフレで中間所得層の人たちに影響して税金を払わされることになったために廃止に至ったのです。AMTのクレジットがある人はクレジット額の50%の還付を請求することができます。2019年、 2020年、 2021年、 2022年に出来ます。
相続税、贈与税、世代スキップ譲渡税 (Estate, gift and generation-skipping transfer taxes) – 相続税、世代スキップ譲渡税は2023年以降廃止されます。相続税は従来500万ドルまで免除されましたが、これが増額されて1,000万ドルまで免除されます。インフレ修正もされます。適用は2017年以降となります。贈与税は35%となり、この適用は2023年以降になります。また免除額は相続税と同じ1,000万ドルになります。毎年の免除額は14,000ドルであり、インフレ修正されます。

下院の税法改正案もかなり思い切った改正案です。この後の上院の改正案とすり合わせて最終の税法改正がなされますが、最終的にどのようになるかに注目しなければなりません。

山口 猛、パートナー
Yamaguchi Lion LLP
11/26/2017

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