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IRSがAPA契約書式の改正案を発表

米国公認会計士 三村琢磨(コスモス国際マネジメント)

 米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2017年9月19日、“Template for Advance Pricing Agreement” (APA契約書式)の改正案を発表しました。
 米国においてAPAとは、Agreementという名の通り、納税者と税務当局(一国又は二国間以上)との間で、一定期間については国外関連者間取引に関して特定の移転価格算定方法を適用する(=つまり原則移転価格税務調査は行わない)事について合意する契約の形をとります(日本では、税務当局から納税者への“確認”という形です)。つまり、合意後は納税者とIRSとの間で契約書が締結されるのですが、申請時にも、添付資料としてAPA契約書のドラフトを提出する必要があります。契約書ドラフトの提出方法としては、IRSが提供するモデル契約書の修正という形で、モデル契約書からの修正点を示した(“redline comparison”)ドラフト契約書を提出する必要があります。今回改正されたのは、このIRSモデルAPA契約書になります。今までのIRSモデル契約書は2004年以降殆ど修正されないまま用いられてきましたが、今回の改正案では大幅な修正、つまり内容の追加が行われています。

改正の主なポイント

 IRSはプレスリリースの中で、大幅な改正を行った理由として以下4点をあげています。
・より迅速で正確なAPA契約書案作成を可能にする
・APA申請の一部である契約書案作成に当たって納税者に対してより多くのガイダンスを提供する
・IRS担当部局による契約書案の審査を容易にする
・二国間および多国間APAにおける当局間合意プロセスを促進する
 上記4つの目的を達成する為の対策の一つとして、改正案においては納税者が該当する部分にチェックマークを付する(“[x]”)選択肢部分が多く用意されています。IRSは、これは「納税者がモデル契約書を個別に修正する手間を極小化しつつ多様な状況に対応する為」 であると述べています。例えば、APA年次報告書において関連者間取引価格が予め合意された水準と乖離していないか(調整の必要があるか否か)をチェックする際に用いる財務諸表の種類の選択肢及び定義について詳細に記載されています。

その他の主な改正点

(1)税務当局による相互協議支援の制限
 改正案では、APAでカバーされる関連者間取引の相手国が米国の租税条約締結国であっても、APAがその国との相互協議を含むbilateral(二国間)又はmultilateral(多国間)型式ではない場合、IRSはその国との相互協議を拒否する事ができると記されています。例えば、米国で日米間の関連者間取引についてunilateral APAを締結した後、日本側で移転価格課税が行われても、それによって生じた二重課税を解消するための相互協議をIRSは受け付けない可能性があるという事です。元々unilateral APAは米国のみでの合意であり、相互協議を行わないのは規則上当然とも思えるものの、今までIRSはそのような場合でも実務的には納税者の要請に応じて相互協議を行っていたことがあると言われています。今後は申請の際、相手国側のリスクを考慮し、unilateral でいいのか、bilateral を選択すべきかについてより慎重に検討する必要があるといえます。

(2)補償調整の際の未払金は借入とみなす
 例えば、あるAPA適用年度において、事前に定められた移転価格算定方法に従い検証対象取引価格の修正を行った場合、対応する金額の送金が行われないと、未収金または未払金を計上することになります。改正案では、この場合の未払金は米国税務上借入金とみなすと記されています。そして次の欄では、「当該関連者間未払金は独立企業間に基づく金利が発生する」と「本APAはbilateral又はmultilateralであり、米国と相手国で合意の通り、本未払金に利息は発生しない」のいずれかを選択するようになっています。つまり、bilateral APAであれば交渉次第で補償調整後の未払金利が免除されるが、unilateralなら金利が当然に発生するように解釈されます。上記の相互協議支援の制限とあわせ、unilateral APAの申請にあたってはより慎重な検討が必要になるでしょう。もっとも、逆に考えるとこれはIRSがunilateralよりも確実な二重課税回避手段としてbilateral/multilateralのAPAを重視していることの現れかもしれません。
 IRSは、改正案について10月31日までパブリックコメントを募集しています。

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