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移転価格課税訴訟でAmazon.comが勝訴

米国公認会計士 三村琢磨(コスモス国際マネジメント)

米国シアトル市に本社を置く世界的なオンライン販売サイト運営会社であるAmazon.com(“アマゾン”)が、米国内国歳入庁 (“IRS”)に対し2012年12月に提訴した移転価格課税取消し訴訟は、約4年3か月を経た今年2017年3月23日、米国租税裁判所がアマゾンの主張を認める判決を出しました。

1.IRS課税の概要

本件は、米国本社がアマゾンの欧州統括拠点であるルクセンブルクの子会社AEHT (Amazon Europe Holding Technology)から2005年と2006年の2年間に受け取ったbuy-in支払金額が過少であったという事で、同2年度において約20億US$(約2,200億円)の所得更正と、それに伴う234百万US$(約250億円)の追徴税額支払を命じたものです。
具体的には、アマゾングループの欧州事業において、欧州の文化や消費者の購買嗜好等に合わせて欧州独自で開発を進めるため、2005年に米国本社とAEHTの2社を中心にコストシェアリング契約(Cost Sharing Agreement、以下“CSA”)を締結しました。CSAに基づき、AEHTは今後の研究開発費やマーケティング費用を分担する代わりに、それらの投資から上がった収益を費用分担の割合に応じて得ることになりました。但しCSA締結前の2004年までに米国本社が開発した無形資産(“既存の無形資産”)からも便益を得るAEHTは、既存の無形資産の買い取り対価を本社に支払う(“buy-in支払”)必要が生じ、同対価を216百万US$(約240億円)と算定しました。
これに対しIRSは民間の専門家を雇い、既存の無形資産の価値をアマゾンの自社評価額より遥かに大きく算定し、AEHTの米国本社に対するbuy-in支払額は約20億US$過少であると認定し、2012年11月に更正課税通知を出しました。

2.判決における主な2つの争点

(1)コスト分担割合

IRSは、アマゾン本社の技術及びコンテンツ関連費用は全て無形資産開発費用であり、CSAにおけるbuy-in支払対価算定においてはその100%を費用分担対象とすべきと主張していました。それに対し判決では、IRSの主張を恣意的であると退け、アマゾン側が主張したCUT法(Comparable Uncontrolled Transactions Method、類似の第三者間取引より無形資産価格を算定する方法)による算定を適切と判断しました。

(2)無形資産の償却年数

IRS側は、アマゾン本社が開発した既存の無形資産は永続的価値を有するとの前提に基づき、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法によりbuy-in対価を算定しました。それに対してアマゾンの主張は、ウェブサイト関連をはじめとする無形資産は技術進歩が急激であり、既存の無形資産(2004年以前)の償却年数はカテゴリーにより7年またはそれ以下と主張していました。判決では、償却年数をカテゴリー毎に8年~20年と、アマゾンの主張よりは長めに決定したものの、永続的であるとのIRSの主張は退けられました。

3.更なる痛手を被ったIRS

移転価格課税訴訟でIRSは敗れ続けています。主要なCSA案件だけでも、Veritas(現Symantec)、Xilinx、Alteraに続く4連敗になります。確かに今回のアマゾンの課税対象年度は、現CSA規則が2009年に制定される前の年度であり、buy-in対価算定に当たり無形資産の償却を認めないなどの処分は旧CSA規則に反する為、元々無理筋であったとの見方が支配的でした。それにしても、判決ではIRSの手法を経済的実体にそぐわない恣意的な方法と批判しており、既存の無形資産の国外移転を厳しく制限した現CSA規則自体が批判の対象となっているという印象を受けます。よって、IRSが2009年度以降についてアマゾンに対し本件と同じ手法による課税を行っても、IRSが再び敗訴する可能性があり、その時は世界的にも飛び抜けて厳しい現CSA規則が見直しを迫られる可能性さえもあるといえます。
また、本件においてもIRSは移転価格算定を民間の専門家に依存しており、判決ではその民間専門家による手法の拙さが指摘されています。しかもIRSが雇った2人の専門家がそれぞれ違うディスカウント・レート(DCF法適用の際に用いる割引率)を使うなど、IRSにおける統制がとれていなかったことも明らかになりました。IRSが、そのように安直な姿勢で、米国経済に貢献している企業に対し巨額の課税を行っていることに怒りを感じる納税者は多い事でしょう。
現時点で最終判決文が出ていないためか、本件に対しIRS、アマゾンのいずれも未だコメントを発表していませんが、上記最終判決文発行後90日以内にIRSは本件に対する控訴の是非を決めなければなりません。類似のVeritas案件と同じく控訴を見送る可能性が高いと思われますが、どちらにしてもIRSの移転価格、特にCSAに関する税務執行は非常に厳しく、八方塞がりの状況になってきました。

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