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国際機関の共同による途上国の税務執行強化の提案

米国公認会計士 三村琢磨(コスモス国際マネジメント)

 IMF、OECD、国連及び世界銀行という4つの主要国際機関が共同で昨年(2016年)4月に創設した「租税に関する共同プラットフォーム(The Platform for Collaboration on Tax)が、“A Toolkit for Addressing Difficulties in Accessing Comparables Data for Transfer Pricing Analyses”(移転価格分析における比較対象データ評価の困難に対応したツールキット)の草案(以下“TK草案”)を1月24日に発表しました。
 途上国にある多国籍企業の子会社が、その国でとれる資源、農産物などの商品を、市場価格より低い価格で親会社や他国の関連会社に販売することにより、途上国子会社の所得減→途上国の税収減という形で税収が収奪されていると途上国は主張しています。この問題を解決するためOECDとしては、自らがG20諸国と協働で推進するBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源の侵食と利益の移転の意)対策プロジェクトの適用により、多国籍企業による途上国からの利益の移転防止につながると考えています。また、途上国の税務執行力を強化し、欧米を中心とする多国籍企業の税逃れを防止することは、BEPSプロジェクト自体の成否を左右するともいえます。

TK草案の概略
 移転価格税制は、関連者間取引が公正な価格(=独立企業間価格)で行われておらず、それにより自国の税収が減る場合、独立企業間価格との差異について税務当局が更正できる権利を有します。しかしそのためには、独立企業間価格を算出するための信頼できる比較対象データを入手する必要があります。ところが途上国の場合上場企業など財務データが開示されている企業や取引が非常に少なく、比較対象データの入手が困難な事から、税務当局の移転価格税務執行は壁に突き当たります。本TK草案は、そのような状況においても途上国が移転価格税務執行を行えるような解決案を以下のように提示しています。

1.比較対象データの情報源を増やす:
 例えば税務当局が有する納税者の税務申告情報の利用もその一つとTK草案では示唆しています。但し、税務申告情報という守秘性が高く開示出来ない情報、つまりシークレット・コンパラブルを移転価格課税に用いる国は日本を含め世界的に批判の対象となっています。途上国だからといってそれが許されるのかどうか、今後の更なる議論が必要でしょう。

2.比較対象データがなくても独立企業間取引であるか否かを検証する方法の適用:
(1)セーフハーバー(Safe Harbor)
 セーフハーバーとは、比較対象データを用いず予め一定の数字(例:コスト+5%)を独立企業間価格(利益率)として設定する方法です。一般的には議論の多い手法ですが、TK草案では豪州やブラジルなどでの使用例を紹介しつつ、重要な無形資産の絡まない製造、サービス等の取引であればセーフハーバーを独立企業間価格として使用できるとしています。
(2)利益分割法
 利益分割法は、既に世界各国の移転価格税制で正式に認められている算定方法です。残余利益分割法などは別として、基本的な利益分割法(貢献度利益分割法ともいう)は、費用、人数など企業内部のデータにより、関連者間取引から生じる合算利益を各当事者に独立企業間利益として分割する事が可能な方法です。外部の比較対象データを用いる他の方法に比べて信頼性は劣るとされますが、比較対象データが無い途上国との取引であれば、そのような内部データを用いた利益分割法も状況によっては適用できるとTK草案は述べています。
(3)Valuation(企業価値評価)手法
 通常は企業価値・株価の評価に使われるDCF(Discount Cash Flow)などのValuation手法ですが、最近は移転価格算定方法の一つとして、特に無形資産取引の評価方法として米国が採用した事もあり、注目を集めています。本TK草案でも、比較対象データがなくても将来の収益予測等を用いて価格の算定が出来るValuation手法は便利なツールであると推奨しています。但し評価は社内でなく第三者の専門家が行うべきであり、またValuation手法は前提条件により結果が大きく変わることに注意を促しています。
(4)APA(事前確認)
 移転価格を事前に両国間で取決めるAPAは、現在主要国を中心に行われており、納税者である多国籍企業にとっては税務調査が入らないというメリットがありますが、税務当局にとっても安定税収の確保につながる他、業界に関する理解が進むため、TK草案では途上国も活用すべきと推奨しています。
(5)その他の租税回避防止手段
 過大な利息やロイヤルティ支払の損金算入規制、タックスヘイブン国へ移転した利益の合算課税など、移転価格以外の租税回避防止税制も活用すべきと指摘しています。
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 尚、本TK草案は2月21日までにパブリックコメントを募集しています。受取ったパブリックコメントは全て公開されるそうです。

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