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コカコーラ社への巨額の移転価格課税

ジョージア州アトランタに世界本社を置く誰もが知る清涼飲料メーカーThe Coca-Cola Company(以下“コカコーラ社”)に対し、米国の内国歳入庁(IRS)が昨年(2015年9月15日付)、2007~2009年度を対象とした巨額の移転価格課税を行いました。それに対しコカコーラ社は2015年12月14日付で同課税の取消しを求めて米国租税裁判所に提訴しました。課税対象取引は、アイルランドをはじめ世界7つの原液製造拠点(以下“ライセンシー”)が米国本社(ライセンサー)からライセンスを受けて原液を製造・販売するに当たり、そのために使用した本社の無形資産である原液の製法やCoca-Colaの商標の対価を本社に支払うという無形資産取引です。更正所得額は94億US$(約1兆800億円)、追徴税額は33億US$(約3,800億円)に上ります。金額を見ると、コカコーラ社が余程アグレッシブな節税あるいは所得の米国外移転を行っていたように見えますが、同社の訴状を見る限りIRSの課税もかなりアグレッシブのようです。

1. IRS課税の問題点

訴状の中でコカコーラ社は、本件課税は根拠がなく無効であると主張していますが、その理由として主に以下を挙げています:

(1)IRSとの合意に反する
 1987~1989年を対象年度とした税務調査を受け、コカコーラ社とIRSは1996年にClosing Agreementを締結(1987年に遡及)、“所定の算定方法”を遵守している限りペナルティの発生は無い旨合意しました。“所定の算定方法”についての詳細は明らかでないものの、ライセンシーが相当額を投資しリスクを負っていたことを認め、そのリスクに見合った一定の残余利益計上を許容していたようです。それでも、上記7ライセンシーは1987~2009年の23年間で計180億US$(約2兆円)以上のロイヤルティを本社に支払っていました。
IRSは締結後2006年度までの約10年間Closing Agreementに沿った算定を認めていたにもかかわらず、2007年以降理由も明示せず急に態度を変えてClosing Agreementから離反した方法で課税した事、更に前述の規定にも拘らずペナルティ賦課まで要求している事は不当とコカコーラ社は主張しています。

(2)不適切な算定方法の使用
 Closing Agreementから離反してIRSが採用したのがCPM(Comparable Profits Method、利益比準法)で、7つのライセンシーをリスクの限定された製造拠点と認定し、比較対象企業のroutine return(通常の利益)の範囲内のみで利益を得ることが出来るとしました。7ライセンシーのリスク&リターンを認めたClosing Agreementから大きく乖離したといえます。
しかも、IRSは比較対象企業としてボトラー(bottler)を選定したようです。ボトラーは、清涼飲料水の濃縮原液を仕入れ、水で薄めて容器(ボトル)に入れて、消費者の手に渡る状態の最終製品にして出荷する会社であり、原液製造会社である7ライセンシーとは明らかに機能リスクが異なると思われます。

(3)外部の専門家を利用
 訴状によれば、IRSは委託した外部の専門家の分析レポートを基に今般課税を行ったようです。以前も記した通り(TOPIC 15-23参照)、最近のIRS国際部門は人員が大幅に減少し明らかな人手不足状態となっており、それでなくても分析に時間と手間のかかる移転価格税務調査の多くを外部委託せざるえない状態のようです。しかし、追徴課税という納税者に重大な影響を及ぼす行政措置を、第三者のレポート、しかも原液製造者をボトラーと比較するという拙い算定方法に基づいて(どの程度レビューしたのかは不明も)実施してしまったのであれば、大きな問題です。しかも相手は世界に名だたるコカコーラ社です。最強の弁護団を立てて裁判に臨んでくるでしょう。IRSは勝算をきちんと立てた上で本課税を行ったのでしょうか。

2. 会社側の問題点及び今後の見通し

IRSはコカコーラ社訴状への反論書を今年2月12日に租税裁判所へ提出、Closing Agreementは調査対象年度(2007~2009年度)適用外であり、本件課税とは関係ないとしています。
その他、IRSは特に言及していないものの、コカコーラ社において世界的な組織再編が2007年までに行われたようです。それにより、同社の連結法人税実効税率は1995年の31%から2006年には23%まで下がっていたようです。その理由としてアイルランド等の低税率国により多くの所得が移転するようになった可能性も考えられます。無形資産取引を介した節税については、OECDが主導するBEPSプロジェクトを待つまでもなく、米国は既に世界一厳しい執行を行っているといえます。しかしながら、上記の通り課税の算定方法が稚拙と思われることから、またもIRSが敗訴してしまう可能性も十分あると思われます。何れにせよ、英GlaxoSmithKlineの米国法人(和解による追徴税額が31億US$)以来の過去最大級の移転価格課税額であり、今後の動向が注目されます。

米国公認会計士 三村琢磨(2016年3月)

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