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米国移転価格税務ニュース

1.アップル社に対するEUの税務調査

時価総額ベースでGoogleを抑えて世界最大、直近の連結売上高も2,300億ドル(約28兆円)と巨大なIT企業である米国アップル社ですが、その業績を牽引しているiPhoneの販売が減速気味で大幅な生産調整を行うとの観測も出ています。そのような中、同社が欧州で巨額の追徴課税リスクに直面しています。

 報道によると、欧州連合(EU)の欧州委員会(独占禁止局)は、アップル社がその欧州本社を置くアイルランドの税務当局から不当な好条件でTaxルーリングを得ており、欧州で租税を回避しているとの疑いによる調査を行っています。詳細は不明ですが、EUは“アップル社はアイルランドから得たルーリングにより有利な会計手法で課税所得を計算しており、グループ連結ベースで売上の55%を占める米国外収入の実効税率は1.8%にとどまっている”と指摘、不当なルーリングによらない適正な課税所得計算に基づき、少なくともアイルランドの法定実効税率である12.5%の法人税を支払うべきであると主張している模様です。一部のメディアでは追徴税額は約80億ドル(9,000億円以上)に上ると推定していますが、何れにせよ欧州では過去最大級の追徴課税が検討されている模様で、早ければ今年3月に結論が出るそうです。
それに対し、アップル社のティム・クックCEOが急遽ブリュッセルのEU本部を訪れ、欧州委員会独占禁止局の責任者と1月21日に会談したと報道されました。アップル製品が欧州全体で140万人の雇用を支えている等、欧州におけるアップル社の大きな経済的貢献を強調し、追徴課税の撤回を求めたようです。
経済貢献をしているからその国で租税回避を認めてよいとは言えないものの、少なくとも政府からTaxルーリングを得ていたにもかかわらず、その頭ごなしにEUに指摘されている事から、アップル社のみならずアイルランド政府も怒っているようです。EUは今月既にベルギーに対しても、アンハイザー・ブッシュ・インベブなど計35社に対する税優遇措置が違法として7億ユーロを追徴課税するよう指示したばかりで、他にAmazon.comがルクセンブルク税務当局から得たTaxルーリングについても調査中のようです。主に高収益の巨大企業を多く有する米国を狙った多分に政治的要素の強い動きにも見えますが、今後も暫く米国企業はEUに振り回されそうです。
アップル社は昨年末頃にも、イタリア子会社がアイルランドに所得を移転したと指摘を受けていたイタリアでの税務調査に関して、イタリア子会社が計318百万ユーロ(約400億円)の追徴課税を支払う事で同国税務当局と和解したと発表しました。当初指摘された額の半分以下で和解できたようですが、やはりアップル社のような巨大な高収益企業は各地で巨額の税務リスクに晒されるようです。同社の直近期の当期純利益534億ドル(約6兆4千億円)から、80億ドルでも対応可能のようにも見えますが、冒頭で記したように大幅な生産調整を行うほど受注が減っているとなると、追徴課税の影響は少なからず有るかもしれません。

2.CbCレポート規則案への各界の懸念

先月号(TOPIC 16-01)で紹介したIRSのCbC(Country-by-Country)レポート規則案に対して、早速実務家(企業の税務部門、専門家等)を中心に懸念が表明されています。
まずは、前回号でも紹介した施行日の1年遅れに関する問題です。現状では、米国系企業の大多数を占める12月決算の企業は2017年度がCbCレポート提出の適用初年度となる見込みですが、多くの国(日本、中国を含め)ではOECDの勧告に従い2016年度から適用の予定です。それら2016年度から適用予定の国に拠点がある企業の場合、本社が米国にあってもそれらの国の税務当局からCbCレポートの提出を要求される可能性があり、その場合米国基準に従って2016年度分の提出を拒むと税務リスクが高まる可能性があります。そこでそれらの国に拠点がある企業は1年前倒しで2016年度からCbCレポートを作成・提出する選択権を与えてほしいというのが企業側の要請です。米国政府(財務省、IRS)としては、適用開始年度については出来るだけ柔軟なアプローチを認めてほしいと相手国側を説得したい意向のようですが、何しろOECDの勧告に背いているのは米国の方ですので、説得がうまくいく保証はないように思われます。
また、CbCレポートの提出期限については、これは逆にOECDの「期末から1年以内」という勧告よりも米国規則案の方が短く、法人税申告期限まで(=延長して期末から最大8.5か月後)としていますが、これについても実務家側では、米国ルールでは各国拠点の法定財務諸表に基づいた数値の提出が間に合わない可能性があると懸念を表明しています。欧州側の主導で進められたBEPSプロジェクトに対する米国側のささやかな反発に見えるこれら米国規則案のOECD勧告との乖離については、実務家側に混乱をもたらす負の側面の方が大きいようです。
一方、米国議会、特に一部の議員は引続きCbCレポートを強く批判しており、米国企業への情報漏えい等の重大な影響を軽減する為の何らかの措置無しには導入は認め難いと主張しています。国際的協調の必要性と、それと相容れない議会の国益の主張に挟まれた米国政府側の苦労も多いことでしょう。

米国公認会計士 三村琢磨(2016年2月)

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