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利益分割が適切な場合(OECD討議草案より)

2014年は、OECD(経済協力開発機構)におけるBEPS(税源浸食と利益移転)対策プロジェクトの急速な進展に連動して、移転価格に関するOECDガイドラインの改定案や討議草案(Discussion Draft)が数多く発行されました。先月紹介した企業グループ間サービス取引(11/3付)に続き、12月には3本の討議草案が公表されました。それら3本の内、今回は、利益分割法に関する討議草案(12/16付)について紹介します。

利益分割法とは、移転価格算定方法の一つで、グループ合算利益が関連会社間で適切に配分されているか否かを、特定の要素(従業員数、資産、費用等)に照らして算定します。極めて簡略化した例で示すと、日本企業A社は従業員数900人で営業利益が100、その米国製造子会社は従業員数300人で営業利益が100とします。A社グループの営業利益と最も相関性が高い指標が従業員数とすると、日米間の営業利益は従業員数と同じ3:1で配分されるべきにもかかわらず、実際には1:1で配分されているため、日本の税務当局はA社グループの日米合算利益200を3:1(150:50)で再配分し、A社に対し+50の所得更正を行います。このような利益分割法は、かつては日本の税務当局が税務調査で数多く用いていたものの、2004年に取引単位営業利益法(TNMM:海外子会社の営業利益率を現地の類似企業の利益率と比較する方法)の適用が認められた事、また第三者のデータを用いず、人数や費用金額など企業内部のデータを用いて算定する利益分割法はそもそも客観性に欠けるという見方が世界的に強い事もあり、通常の状況においてはあまり使われなくなりました。しかしながら、利益分割法は移転価格算定方法の一つとしてOECD及び殆どの国の税制で明記されており、特定の状況においては利益分割法の適用が最適な場合があります。それは、(1)グループ各社の取引関係が高度に統合化されている場合、及び(2)技術、ノウハウ等重要な無形資産(=超過収益の源泉)を本社のみならず海外関連会社が共有している場合などで、それらの場合各社・各取引を単独で算定するのが困難または不適切となるため、利益分割法が最適な方法となります。

今般のOECD討議草案では9つのシナリオをあげ、各シナリオに対して「利益分割法は適用できるか?」、「分割ファクターとしては何か妥当か?」等々合計32の質問が提起されています。本討議草案をベースに、パブリックコメント提出や今後の議論を経てそれら質問に対する回答が固まるものと思われ、本討議草案はあくまで今後の議論の土台という位置付けです。但しこれら9つのシナリオは、利益分割法の適用が検討可能か否かを検討する際の事例として参考になりますので、海外子会社の移転価格分析がTNMMやCUP法等他の方法では難しいと感じている企業の方は、原文を一読することをお勧めします。以下、紙面の制約上シナリオの一部を紹介します:

[シナリオ1]
ある耐久財のメーカーは欧州3ヶ国に主要製造子会社を有し、更に欧州他国には受託製造、販売等の孫会社を有している。この場合、受託製造や販売の孫会社については単独ベースの算定方法(TNMM等)が可能であるが、欧州主要製造子会社3社間の取引・業務は3社合同で経営戦略を作成する等高度に統合されており、利益分割法(残余利益分割法)の適用が可能である。

[シナリオ2]
あるIT企業は検索エンジンやEメールサービス(無料)、オンライン広告(有料)等の事業を行っている。それら事業に関する技術は親会社R社が開発した。一方各国の子会社では、サービス利用を促すための翻訳、各国法規制の遵守、ユーザーへの技術サービス、広告プログラム推進、現地向けにサービスやアルゴリズムを微調整するための本社との折衝等を行っている。(筆者注:前述の通り利益分割法は両当事者が価値ある無形資産を共有する場合に最適の方法である為、本件では各国の子会社が価値ある無形資産を有しているといえるかがポイントになります。)

[シナリオ3]
P社はハイテク産業機器メーカーで、S社は海外S国の販売子会社。P社は製品の技術開発を行い、特許や商標等の知的財産権の全てを所有する。一方S社は、現場でのサービス、多量の修理パーツ在庫保有、故障発生を未然に防ぐ高度なメンテナンスサービス、機器選択に関する顧客へのアドバイス等を提供し、非常に緊密な対顧客関係を構築している。この業界においては製品の信頼性がきわめて重要であるため、子会社Sのこのような活動は通常の販売活動の範疇を越え、P社グループに競争優位性をもたらす主要な要因の一つとなっている。

 

米国公認会計士 三村琢磨(2015年1月)

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