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Amazon.comに対する移転価格課税と訴訟

今月は先月号(TOPIC 13-01参照)で取り上げたスターバックスと同じ米国シアトル市に本社を置く、オンライン販売サイトを運営するAmazon.com(以下“アマゾン”)の近況です。最近の報道によると、同社は欧州子会社との取引に関し米国IRS(内国歳入庁)より昨年11月に巨額の移転価格課税を命じられましたが、昨年末の12月28日、同課税処分の取り消しを求め米国租税裁判所に提訴しました。

原課税処分は、米国本社がアマゾンの欧州統括拠点であるルクセンブルクの子会社AEHT (Amazon Europe Holding Technology)から2005年と2006年の2年間に受け取ったBuy-in支払金額が過少であった という事で、同2年度において約20億US$(1,800億円)の所得更正と、それに伴う234百万US$(210億円)の追徴税額支払を命じたものです。

1.背景

アマゾンが租税裁判所に提出した訴状によると、同社は1998年に英国とドイツを皮切りに、2000年にはフランスと、欧州各国でAmazon.comを立ち上げました。当初は米国で培ったノウハウをそのまま用いていましたが、やがて欧州の文化や消費者の購買嗜好、インターネット環境等に合わせてサイトを作り替える必要があると判断、2004年より欧州事業の再編を行い、欧州各国のウェブサイト所有権及びその管理をAEHTに移管しました。それに伴い2005年1月1日付で、米国本社とAEHTの2社を中心としてコストシェアリング契約(Cost Sharing Agreement、以下“CSA”)を締結しました。CSAの内容は、参加者は今後の研究開発費やマーケティング費用への投資を分担する代わりに、それらの投資から上がった収益を費用分担の割合に応じて分けるというものです。CSA開始から2011年末までにAEHTは11億US$(990億円)を超える研究開発費を払いました。

一方で、サイトの所有権を譲り受けたAEHTはCSA締結前の2004年までに米国本社がつくりあげてきた無形資産(以下“既存の無形資産”)からも便益を得るため、その既存の無形資産の価値相当額を米国本社に支払う必要が生じますが、それをBuy-in支払といいます。アマゾンでは既存の無形資産の価値を216.7百万US$(195億円)と算定、AEHTは2005、2006年に計155.88百万US$(140億円)の分割Buy-in支払を米国本社に対し行いました。

2.IRSの課税及び主張

これに対しIRSは民間のコンサルティング会社を雇い、米国本社が2004年までにつくりあげた既存の無形資産の価値を36億US$(3,240億円)と、アマゾンの自社評価額の16倍を超える金額を算定しました。その上で、2005~2006年にAEHTが米国本社に支払うべきBuy-in支払額は20億US$足りないと主張し、課税処分を行ったのです。

これだけ既存の無形資産の評価額に違いが生じた理由の一つとして、算定の前提条件における償却年数の違いがあるようです。アマゾンの訴状によると、同社は既存の無形資産の償却年数をカテゴリー別に7年またはそれ以下と設定しましたが、IRS側では同無形資産は永続的価値を有すると認定しました。両者ともに算定に使用したDCF法では、7年以下と永続では将来の無形資産評価額及びそこから生じるキャッシュフロー額に大きな違いが生じます。その上IRSでは、2012年以降の既存の無形資産からの予測利益が年3.8%永続的に増加するという前提条件を設定したようです。成長率が高いインターネット業界である事を考慮しての前提でしょうが、これも巨額の算定結果の一因になっていると思われます。

3.アマゾンの主張、及び所感

アマゾンは、これらIRSの算定方法は、IRSがVeritas(現シマンテック)に対して追徴課税を行った時とほぼ同じ方法であると主張しています。Veritas課税案件に関しては、IRSは2009年に租税裁判所で敗訴し、その後控訴せず判決が確定していることから、アマゾンは「敗訴したVeritasと同じ課税処分は当然認められない」と主張しています。また、IRSによる既存の無形資産算定方法及び課税処分は、2009年1月より有効の新コストシェアリング規則に基づいているところ、アマゾンのCSA契約締結は2005年1月であり、当時のコストシェアリング規則には違反していないと主張しています。アマゾンの主張を見る限り、本裁判においてIRSの不利は否めないようにも思えますが、IRSが今後どのように抗弁するかにも注目されます。

それにしても、アマゾンのような米国の巨大IT企業はその儲けもハンパでない上、節税手法もアグレッシブであることから、税務当局のターゲットになっています。2009年にはアマゾン米国本社が日本に恒久的施設を有すると認定され、東京国税局から140億円の追徴課税を受けました(翌2010年の日米間相互協議により同課税は取消される)が、それ以降も各国で税務調査を受けており、同社は2011年4月に、計15億US$(1,350億円)の追徴課税リスクを抱えていることを開示しています。高収益企業に巨額の課税はつきものとはいわれるものの、改めて企業の税務リスクマネジメントの重要性を痛感します。

米国公認会計士 三村琢磨(2013年2月)

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