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米国公認会計士 三村琢磨

先月号で紹介の通り、英国が10月29日、大手IT企業の租税回避防止を目的としたデジタルサービス税(Digital Services Tax、以下“DST”)を2020年4月より導入することを決定しました。
その後、本丸のEUにおいて一部の国の反対によりDST指令案が中々実現しないことにしびれを切らしたフランスとドイツが12月4日、オンライン広告収入のみに対し売上高の3%を徴収するというEU案の縮小版DSTを2021年より徴収すると発表しました(但しそれまでにDST徴収方法についてOECDでグローバルな合意が出来れば撤回するとの条件付)。
更にフランスは12月17日、独自のDSTを来年2019年1月1日より導入すると発表、広告収入の他、個人情報販売収入も課税対象とされました。発表から2週間後に課税が適用されるとはきわめてアグレッシブであり、これは最近先鋭化している米国とフランスの対立が背景にあるかもしれません。しかし、欧州主要国においてGAFA(Google、Apple、Facebook、 Amazon)を始めとする米国IT企業の露骨な租税回避策に対する怒りが高まっていることは確かです。
米国の代替案と、潜在的な問題
そのような中、それらIT企業のお膝元であり、これまでDSTに反対してきた米国が、OECDのデジタル業界への課税を検討するタスクフォースにおいて、DSTに替わる課税案を提案したようです。その内容は、各国は自国におけるマーケティング無形資産により生じた利益に課税できること、及び対象はオンラインIT企業のみならず全ての業種の多国籍企業が対象であることを含むそうです。来年1月以降にOECDより具体的な発表があるようで、現時点で詳細は不明です。しかし、この米国案には、以下のような潜在的問題があると考えます。
まずは、マーケティング無形資産の定義が不明です。例えば英国で実施予定のDSTは、自国のユーザーに向けて行われたサービスを課税対象とする点で明確ですが、無形資産の定義付け及び評価は難しく、BEPSプロジェクトを経たOECDの改正移転価格ガイドラインでも明確になったとは言い難い状態です。そのような無形資産を課税ベースとすることでかえって焦点がぼやけ、IT企業への確実な課税を難しくするおそれがあると考えます。
次に、移転価格税制では、価値ある無形資産が多国籍企業の主たる収益の源泉とされていますが、価値ある無形資産の中心を占めるのは通常は製造・技術開発関連の無形資産であり、多国籍企業の利益の多く、特に残余利益は研究開発機能より生じる技術関連無形資産に帰属すると考えられています。ところが、マーケティング無形資産から生じる利益に課税する米国案は、多国籍企業の利益の内、開発・製造活動から生じる利益として先に一定部分を割当て、残りをマーケティング無形資産から生じる利益として各国で課税するという案ではないかと言われています。そうなると、残余利益がマーケティング無形資産のみに帰属するということになり、既存の移転価格税制との矛盾が生じることになります。そのような矛盾の解決は容易ではないと思われます。
更に、米国は自国企業が殆どを占めるオンラインIT企業を特定した課税には反対しており、今回のマーケティング無形資産から生じる利益への課税案は業種を特定しないことにより、公正な課税となると米国財務省の関係者は述べているようです。しかし元々の問題は、巨大IT企業がオンラインビジネスであるのをよい事に、アイルランド、ルクセンブルクなどの軽課税国の関連会社が欧州、日本等の主要国で直接販売を行うという形式をとり、これらの国では(軽課税国関連会社の)事務所がないために、「PEなければ課税なし」の原則に形式的に抵触しない事により、それら主要国での課税を逃れていることです。オンライン以外の伝統的な事業では、通常販売を行う国には販売拠点があり、販売拠点は利益をあげてその国で課税されています。勿論移転価格の問題は各企業個別の問題として残りますが、租税回避の問題が全体として指摘されていることはありません。そのように問題がある業界とない業界を混同して課税しようとする試みには疑問を感じますし、むしろこれにより、米国で大きな売上をあげているオンラインIT以外の企業が米国で巨額の課税を受ける可能性を懸念します。
 例えば、トヨタ自動車の2018年3月期の有価証券報告書をみると、同決算期の自動車販売台数は北米が最も多く281万台と、日本での226万台を上回っています。但し地域別営業利益では日本が1兆6,599億円と、北米の1,389億円の10倍以上を計上しています。これは、北米自動車販売の競争が激しく利益率が低いといった要因も考えられるものの、トヨタの自動車開発・製造に係る技術的に重要な無形資産は日本で形成され、日本に所在することから、それなりに相応な利益配分が日本に対してなされるのではないかと思われます。しかし、今回の米国案のようにマーケティング無形資産に応じて課税するとなると、最大の販売市場である米国において、トヨタは税逃れをしているなどという理屈が通ってしまい、日米間の利益配分が大幅に修正され、米国で巨額の課税を被るかもしれません。詳細が出る前に推測しすぎるのも危険ですので、来年以降出てくると思われる米国案の詳細に注目したいと思います。

IRS (Internal Revenue Service – 内国歳入庁)は、時折、規則の改正などについて発表します。2018年 12 月14日に発表された規則の改正の中でいくつか興味ある記事を抜粋して説明します。
車の標準マイレージ – 自家用車をビジネスに使う時には、ガス代とか修繕、維持費など車に関わる経費は損金処理することが出来ます。今回、IRSが2019年度に使われる標準マイレージのレートを発表致しました。標準マイレージというのは、実費ベースで車の経費を損金処理する代わりに1マイルにつき一定のレートで車の経費を損金処理することです。次の3つのグループについて新レートが発表されました。ビジネスに使用する車の場合、1マイルにつき58セント、2018年よりも3.5セント値上がりしております。医療及び住居の移転に際して車を使う場合には、1マイルにつき20セント、慈善活動で車を使う時のレートは1マイルにつき14セントとなります。会社が払ってくれなかった従業員の旅費は、過去においては個別控除の中の雑費用として控除出来ておりましたが、トランプの改正法の下では控除できません。従業員の移転費用もトランプの改正法の基では控除できないのです。それから減価償却を費用として控除する場合には、この標準マイレージレートは使えません。又、初年度一括償却を使用した場合にも、標準マイレージレートは使えません。それから標準マイレージレートは、4台以上の車にも使えません。
控除出来なくなったパーキングフィーや慈善活動に関係ないビジネス課税所得 (Unrelated business taxable income) – 2018年から会社が従業員の為に払うパーキングフィーが控除出来なくなります。慈善団体の場合、これらの控除出来ないパーキングフィーが慈善活動に関係しないビジネス課税所得 (Unrelated business taxable income)を増やすことに繋がります。この規則の発表が遅かったので、IRSはすでに採用している方法を納税者が踏襲することを認めております。この規則の大事な点は、2019年3月31日までパーキングフィーの控除が引続き出来ることです。即ち、教会や学校、病院、その他の慈善団体は、ビジネス課税所得の額を減額することが出来るのです。場合によっては、慈善団体の申告書フォーム990-Tを提出することをしなくてもよくなるかもしれません。この規則の実施は2018年1月1日です。この他、該当する慈善団体に対して予測されるペナルテイーの救済策を発表したり、ビジネス課税所得が$1,000を超えなければ慈善団体はフォーム990-Tを提出することもなく、ビジネス課税所得に対する税金 (Unrelated business taxable income tax)も払わなくてもいいという規則も発表します。
山口 猛、パートナー
Yamaguchi Lion LLP

米国公認会計士 三村琢磨

 英国のハモンド財務相は2018年10月29日の予算演説において、大手IT企業を対象とするデジタルサービス税(Digital Services Tax、以下“DST”)を2020年4月より導入し、年4億ポンド(約580億円)以上の増収を目指すと表明しました。
背景
 バミューダ、アイルランド及びオランダを組み合わせた巧妙な節税スキームが最初に発覚したGoogle(現Alphabet Inc.)をはじめ、Apple、Amazon、Facebookなど米国系大手IT企業は軒並み同様な節税を行い、本国の米国以外では殆ど法人税を払っていないと言われています。それら企業は、例えば日欧などの主要国ではアイルランドやシンガポールなど国外の関連会社がメインで事業を行う形を取る為、売上及び利益の殆どは国外関連会社が計上します。一方、自国の拠点は補助的な業務しか行っていないとして僅かな利益しか計上しておらず、利益に課税する現行の法人税体系では各国とも(それら企業が自国で巨大な利益を稼ぐにもかかわらず)殆ど税金をとれていない状態です。欧州各国ではそれに対する批判が高まっており、欧州連合(EU)の欧州委員会では今年3月、一定規模以上のIT企業によるオンラインによる広告、交流サイト・販売市場の提供等によるEU域内の売上の3%を課税するというDST指令案が提案されましたが、アイルランド、ルクセンブルグ等、大手IT企業の節税スキームの恩恵を受けている国の反対により実現のメドは立っていません。そのような中、来年3月にEU正式離脱を予定している英国が、EUに先駆けDST導入計画を具体化させました。
英国DSTの概要(英財務省HP抄訳)
(但し例、円換算額等のカッコ書きは筆者注)
 DSTは、特定のオンライン・ビジネスモデルで且つ英国のユーザー参加により得られる収入の2%を課税する。特定のビジネスモデルとは、検索エンジン(例:Google)、交流サイト運営(例:Facebook)、及びマーケットプレイス運営(例:Amazon)を指す。英国政府は、これら3つのオンライン・ビジネスモデルがユーザーの参加により大きな価値を得ていると考える。
 DSTは商品のオンライン販売自体に課税されるものではなく、そのような販売を仲介することによる収入にのみ適用される。また、オンライン広告やデータの収集に関する一般的な税金でもなく、あくまで上記3つの特定ビジネスモデルのみが課税対象である。DSTが課税されるのは、例えば以下の場合である:
・ 交流サイトが英国ユーザーをターゲットとする広告により収入を得る場合
・ 英国のユーザーとの取引を成立させることによりマーケットプレイスが手数料収入を得る場合
・ 検索エンジンが、英国のユーザーが入力したキーワード検索結果に対し広告を表示して収入を得る場合
更にDSTは以下のような特徴を有している:
・ 二重の基準値: DSTの課税対象は、上記特定ビジネスモデルの内、全世界で£5億(約720億円)以上の収入を得ている事業の、英国関連収入である。但し英国関連収入の内£25百万(約36億円)までは課税対象外であり、中小事業が対象外であることを示している。
・ セーフ・ハーバー: 利益率が著しく低い企業のDST支払負担を減じる税額算定方法の選択を可能にする。この算定方法は今後発表される。
・ レビュー: 英国政府は2025年に、それ以降もDSTが必要か否かを決定するため、DSTを再審査する。適切な国際的解決策(例:OECD主導による各国共通のDST実施)が2025年より前に実施されている場合、英国独自のDSTは廃止し、国際的ルールに従う。
・ DSTは、英国法人税上通常は損金に算入されるが、租税条約の対象ではない為、法人税からの税額控除はできない。
・ 金融・決済サービス、オンラインコンテンツ提供、ソフトウェア/ハードウェア販売、及びテレビ/放送サービスはDSTの対象外。
所見:英国の存在感と日本の現状
 金融立国で、且つ海外領土にバミューダ、ケイマン等多くのタックス・ヘイブンを有するなど、ハイテク企業にも親和的なイメージがある英国ですが、実は租税回避防止については先進的です。既に2015年には、節税スキームにより英国を迂回させた利益に対し25%の法人税(通常の法人税率は現在19%)を課する「迂回利益税」を導入済ですが、今回は更に大手IT企業に焦点を絞ってDST導入を一早く表明しました。EU案の3%よりも低率である等遠慮がちながらも、オンライン・ビジネスモデルが税を逃れている明らかな不公正状態を打破すべく勇気ある措置と言えます。翻って日本でも、巨額な利益をあげているオンライン・ビジネスモデルへの膨大な課税漏れ状態が続いていると思われます。国内企業、中小企業を税務調査でいじめる前に、税収確保と課税の公正を保つ為には、日本もまずこの大きな問題に率先して取り組むべきではないでしょうか。

米国公認会計士 三村琢磨

 先月に続き、最近動きのあった北米の主要な移転価格訴訟事案について紹介します。
1.Medtronic plc(対米国税務当局IRS)
医療機器大手のMedtronic社(2014年に登記上の本社をアイルランドに移したが、事業上の本社は引続き米国ミネソタ州)は、医療機器やリード線の製造を行う子会社のプエルトリコ法人から2005~2006年度に米国本社が受取ったロイヤルティが低すぎるとしてIRSから14億ドル(1,500億円超)という巨額の移転価格所得更正を受けました。具体的には、それ以前に同社はIRSより指摘を受け、プエルトリコ法人からの受取ロイヤルティ料率を医療機器売上の29%→44%、リード線売上の15%→26%に各々引き上げたにもかかわらず、その後IRSは異なる移転価格算定方法(CPM)を適用し、プエルトリコ法人はシンプルな受託加工会社にすぎず、同法人が得る利益のうち比較対象企業の水準を超える部分については全て超過利益として米国本社に納めなくてはならないという方法に切り替えて課税しました。
Medtronic社の提訴を受けた米国租税裁判所は2016年6月、IRSのCPMによる算定は独断に基づいた不合理なものとして却下しました。その理由として租税裁判所は、プエルトリコ法人がCPMで算定可能な受託加工会社ではなく、相応の規模及び設計、試験などの研究開発機能も有する総合的なメーカーであり、重要な無形資産を保有していることから相応の残余利益を得る権利があると認定しました。よって租税裁判所は、移転価格算定方法はMedtronic社の主張するCUT法(類似の第三者間ライセンス取引とロイヤルティ料率を比較する方法)の適用を認めつつ、但し料率自体については同社が主張する機器29%、リード線15%ではなく、独自の分析を行った結果機器44%、リード線22%と、IRSと以前合意したものに近い水準が正しいとしました。よってMedtronic社の主張が全面的には認められなかったものの、実質的には同社の勝訴といえる内容でした。
IRSの控訴を受けた控訴裁判所では今年(2018年)8月16日、租税裁判所の上記判決の根拠となる分析の詳細が十分に呈示されていないとし、同判決の無効及び租税裁判所への審理差し戻しを言い渡しました。控訴裁判所の判断はIRSの課税処分が正しいと認めたのではなく、単なる差戻しですので、IRSが逆転勝訴したとまでは言えず、今後の展開は未だ不透明といえます。しかし、本件対象の2005~2006年度以降についても同じ問題を抱えているMedtronic社にとっては、再度租税裁判所に戻っての審理となり、今後の係争に更なる期間を要する見込みとなったことは大きな打撃と思われます。また租税裁判所の2016年6月判決については相応に合理的と認める意見が多い中、今般控訴裁判所の差戻し判断については、その理由が詳細に示されていない等、多くの専門筋は問題視しています。
2.Cameco Corp.(対カナダ税務当局CRA)
世界最大級のウラン採掘・精製会社であるカナダのCameco社は、スイスに販売子会社を設立し、同子会社がカナダ本社や別の非関連会社からウランを購入し、再販売していました。スイス子会社がカナダ本社から購入するウランの価格は、非関連者からの同購入価格に準じて設定していたようです。ところがCRAは、スイス子会社は従業員数僅か2名と実態がなく、同子会社が行っていた売買取引を偽装と認定、スイス子会社が稼得した所得はカナダ本社が計上すべきとして、2003、2005、2006年度の3年度合計CAN$ 483百万(約420億円)の所得更正処分を行いました。
同処分を不服としてCameco社の提訴を受けたカナダ租税裁判所は今年9月26日、同社とスイス子会社との取引は偽装にあたらないとして、CRAの更正処分を取り消すよう命じました。租税裁判所によると、たとえスイス子会社を通じた取引が節税目的であっても、偽装取引と認定する為に必要な“詐欺”の要素が本件には存在しないことから偽装取引として否認することはできないとしました。また類似性の高い第三者間取引価格がありCUP法(関連者間取引価格を類似の第三者間取引価格に則して設定する方法)が適用できる以上、独立企業間原則を遵守していると判断しました。
経済協力開発機構(OECD)が主導した租税回避防止の為のBEPS (Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクト最終報告書では、利益は主に経済的価値に応じて生じるものであり、経済実体を伴わない取引契約を税務当局は否認することができるとしていますが、本判決では詐欺ではなく合理的に組成された取引自体を否認する事までは難しいと示しており、BEPS最終報告書の厳しすぎるスタンスから一線を画した判決のように思えます。但しCRAも控訴すると予想され、今後の控訴審以降の展開は予断を許しません。

米国公認会計士 三村琢磨

1.背景(2003年税制改正とXilinx判決)
IT、製薬等多くの高収益な米国企業が国外子会社と締結している費用分担契約(Cost Sharing Agreement、以下“CSA”)において、ストックオプション報酬(Stock Based Compensation、以下“SBC”)にかかる費用(=従業員の権利行使時に発生する市場株価と権利行使価格の差)をそれら国外子会社に分担させる必要があるか否かは重要な問題です。SBC費用を税率の高い米国本社のみで損金算入できず、アイルランド、バミューダ等の低・無税率国の拠点にも分担させなければならないとなると、全世界ベースの税務コストが上昇し企業価値の減少を招きます。
IRSは半導体開発企業Xilinx Inc.に対しSBC費用をCSAで分担すべきとの更正課税を行った後、2003年にSBC費用を国外関連者に分担させる事を明確化したCSA規則改正を行いました。しかし2005年8月に租税裁判所は、SBC費用は第三者間では分担されていないことから独立企業間原則に反するというXilinxの主張を支持した判決を下しました。控訴裁判所では、2009年5月に一度IRSが逆転勝訴したものの、その後の産業界からの猛烈な反発を受けてか、2010年3月に租税裁判所を支持する再判決を言い渡し、結局IRSは敗訴しました。但しXilinxのケースはCSA規則改正前の年度が対象であり、2003年以降については規則が改正された為、CSAにおいてSBC費用は国外関連会社に分担させるべきものと理解されていました。
2.Altera事案における租税裁判所判決:
しかし、Xilinxと同業の米半導体開発企業Altera Corp.(現在ではIntel Corp.の子会社)は、ケイマン諸島の子会社との間でCSAを行っていたにもかかわらず、同子会社にSBC費用を分担させていませんでした。当然ながらIRSは税務調査でこれを指摘し、2004~2007年度にUS$約80百万の所得更正をAlteraに対して行いました。Alteraは、2003年の改正CSA規則自体が、第三者間での取引実態を無視したものであり独立企業間原則に反する為無効であるとの訴訟を2012年に提起しました。
2015年7月27日付で、米国租税裁判所はAlteraの主張を全面的に認め、2003年改正CSA規則を無効とする判断を、本件に関与した判事15人の全員一致で言い渡しました。理由としては基本的にはXilinx判決を引き継いでおり、IRSは「第三者間ではこのように行われるであろう」という理論のみに基づいた規則改正を行っており、そのような改正は、第三者間における実態を十分に反映して法制定しなければならないとする米国行政手続法に反するとしています。その他、SBC費用はCSAの費用分担対象とすべき高付加価値な無形資産を形成する費用として関連付ける事は難しいとも指摘しました。
3.控訴審判決及びその後
IRSの控訴を受けた連邦控訴裁判所は2018年7月24日、3人の裁判官の多数決(1人は反対)により租税裁判所の判断を覆し、2003年改正CSA規則は有効であるとの判決を下しました。つまりSBC費用を国外関連者に分担させるべきとする2003年の規則改正は合理的な改正であり、IRSは米国行政手続法に反しているといえないとしたのです。これは敗訴が相次いだIRSにとって久々の移転価格裁判勝訴の報道であり、CSAを行っている多くの米国企業に大きな影響を及ぼします。現にFacebook 、Appleなど名だたる米国IT企業は、同判決を受けてSBC費用を国外子会社と分担する事、又それによる税務コスト上昇の見通しを発表しました。
ところが、その後思わぬ展開が待っていました。判決を出した3人の裁判官の内1人が今年3月に既に亡くなっていた事が明らかになりました。口頭弁論はその時点で終わっていたのでその裁判官が租税裁判所の判断を覆す判決に賛成していた事は確かのようですが、それにしても判決文完成前に死亡していたにもかかわらず多数決(死亡した裁判官を含め2対1)の判決を出した事に原告のAltera側を含め批判が起こりました。それを受けてか、8月2日で後任の裁判官Susan Graber氏が着任、そして8月7日、控訴裁判所は、再構成された判事団が本件協議に要する時間を確保する為との理由により、7月24日付判決を撤回しました。撤回の背景としては、1人欠けていた状態で判決を出した事を不備として突かれると後日原告が更に上告した場合の係争時に問題になる可能性が高いとの配慮のようです。Graber氏が租税裁判所の判断を覆した本判決に賛成か否かは現状不明ですが、本件の再審理が10月16日から始まると発表されました。Altera及び多くの他の米国企業にとっては取り敢えず朗報ですが、今後の展開はどちらに転ぶか全く予断を許さなくなりました。それにしても、過去のXilinx事案、今回のAltera事案共に、世界に誇る米国の三権分立システムの一翼を担う司法の当局である控訴審のお粗末な対応には驚くばかりです。

2018 年10 月3日に、内国歳入庁 (Internal Revenue Service – IRS) はトランプの税法改正の中の接待費やビジネス上の食事に関して一種のガイダンスを発表致しました。このガイダンスは、通知 2018-76 (Notice 2018-76)と言われ、該当する税法の条項は、税法274条となっております。
過去の規則では、ビジネス上の食事や接待費は、掛かった費用の50%を控除することが出来ました。しかしながら新しい改正税法の元では、接待費は全く控除できないことになったのです。しかしながらこの通知2018-76では、ビジネス上の食事に関する詳細な規則はなく、これについては提案規則を将来発表する予定になっております。
もともとアメリカの税法ではビジネスを行う上での経費についてはビジネス遂行の上の通常の経費そしてビジネスを遂行する上で必要と考えられる経費はすべて控除できるという大前提があります。接待費についても、(1)接待がビジネスに直接関連しており、(2)接待をやりながらビジネス上の討議が行われたということであれば、経費の50%の控除を認めていたのです。ところがトランプの税法改正では、所謂、接待費 (Entertainment ,Amusement or recreation) は、一切控除できないということになったのです 。改正税法の下では、接待費が控除できるための条件である接待がビジネスに直接関係することや接待の間にビジネス上の討議をするという条件を無効にしたのです。接待とはどんなものが入るのでしょうか。この通知で上げられているのはナイトクラブ、カクテルラウンジ、劇場、カントリークラブ、ゴルフ クラブやアスレチッククラブ、スポーツのイベント、狩猟、釣り、バケーション、旅行などであり、納税者やその家族に関するものです。又食事や飲み物を提供したり、ホテルのスイート ルームや、自動車をビジネス上の顧客やその家族に提供することです。しかし、オーバータイムで働く従業員に夜食代を払うのは含まれませんし、旅行中の従業員にホテルの部屋を提供すること、ビジネスで使う車を通勤に使うことも含まれません。ただし、休暇中の従業員にホテルの部屋を提供したり、車を使わせたりするのは接待費になります。
野球の観戦に行った時の切符代は接待費ですが、野球場でホットドッグを買うのは食事代であり、その50%が控除出来ます。ところが野球場のボックス席で切符代と食事、飲み物代が一緒になっているときには、すべて接待費として取り扱われ、控除できないことになります。この通知2018-76では、次の場合に食事代の50%が控除できるとしております。
1. 通常且つ必要な経費であること、2. 贅沢な経費ではないこと、3. 食事や飲み物を提供するときに従業員がいること、4. 食事や飲み物が既存の又は潜在的な顧客、クライエント、コンサルタントなどに提供されること、5. 接待中に食事や飲み物が提供される場合には、食事代が別表示されていることです。
山口 猛、パートナー
Yamaguchi Lion LLP

セールス タックス (Sales tax)は売上税とも言われますが、商品を販売したり、サービスを提供した場合に最終の購買者、利用者 (End user)が支払わなければならない税金です。正式には、Sales and Use tax (売上税及び使用税)と呼ばれます。卸売りの場合には、税金の徴収は小売業者に転嫁されて、小売業者が最終購買者から税金を徴収して、税務署に払います。実は、この簡単なセールス タックスの徴収が、Eコマースの発達とともに大問題になったのです。

例えば、ある州の中の小さな小売店が商品の販売をすると、その州内に売ったセールス タックスをすべて徴収して州に支払います。ところがその州の中に事務所も従業員も在庫も持たないE コマースの大きな会社がオンライン販売で莫大な売り上げを達成しても、事務所も従業員も在庫もないからと言うことで1セントもセールス タックスを徴収したり、支払うことはしませんでした。本来であれば、セールス タックスを徴収されなければ、買った人が使用税を払わなければならないのですが、個人の消費者はどうせ分からないからと言うことで払いません。州は莫大なセールス タックスを取り損なっていたと言うのです。

そこでノースダコタ州が年に3回以上広告をして商品の販売をする会社は、セールス タックスを徴収する義務があるとしたのです。Quillと言う会社のケースです。州は二つの根拠をベースにしました。徴税をするためには、州内に事務所や従業員や在庫を持つことまではいかなくてもその州内の顧客に商品を販売する何らかの活動をしていたら課税するとしたのです (Due process clause-正当な手続き)。一方、州間でビジネスを行うような会社は議会が監督しますが、あまり州間のビジネスに干渉することはまかりならぬということになっているのです (Commerce clause-商習慣)。1992年の最高裁の判決ではセールス タックを徴税する為にはその州内で事務所や従業員、在庫の存在が必要だとしました。ところが、2016年にサウスダコタ州が、州内に事務所や従業員や在庫が無くても、10万ドル以上の販売又は200回以上の取引を州内で行うE コマースのようなビジネスを行う州外の会社はセールス タックスを徴収して支払うように義務ずけました。しかしWayfair社はそれに従わず、セールス タックスの徴収、支払いをしませんでした。そこで州がWayfair社を訴え、Wayfair社は逆に反訴しました。この裁判は、結局最高裁まで行き判決をされました。最高裁の判決は、州内に物理的に存在しなければならないというQuillの判決は正しくない、又その判決はマーケットを不当に歪曲し、一方的であり、形式的であるという理由で否定しました。最高裁は、州にEコマースのようなビジネスを行う州外の会社にセールス タックスを徴税して支払う義務があるとしたのです。アマゾンやカタログ販売をするような会社になります。当然、反対する会社も多く、これからどのような展開を見せるのか興味があります。

山口 猛、パートナー
Yamaguchi Lion LLP
9/14/2018

新しいリース会計
リース会計は複雑であり、昔から会計方法が統一されていないという批判がありました。財務会計審議会 (Financial Accounting Standard Board – FASB) は、この批判を受けて長年この問題を検討して、過去において3度リース会計についての提案をしてきました。最初がFASBの討議メモに仮の見解として発表したのに続き、2010年の提案会計原則更新案 (the proposed Accounting Standards Update, Leases (Topic 840))、そして2013年の提案会計原則の更新案 (the proposed Accounting Standards Update, Leases (Topic 842))です。この三つの提案をもとに、FASBは借手はバランス シートに資産と負債を計上すべきであるという結論を出したのです。上場会社の適用日は、2018 年12 月15日以降、それ以外の会社の適用日は、 2019年 12月 15日以降になります。
借手の会計 (Lessee accounting)
Topic 842は、借手はリース契約をバランスシートの上で資産と負債として計上すべきであるとします。昔は、オペレーティング リースでは資産計上はせず、損益計算書の上でリース料を計上するだけでした。借手はリース契約に伴う負債を計上し、リース資産を使用する権利 (リース期間に亘ってリース資産を使用する権利)を資産として計上するのです。契約期間を延長するオプションがついている契約については、そのオプションが必ず実施されるという確約がある場合にのみ、そのオプションの内容を盛り込みます。リース資産を購入するオプションがついている場合も同じ考えかたです。このオプションの履行、不履行の判断基準は前の会計原則の考え方と変わりありません。12ケ月以内の短いリース契約の場合は、リース資産と負債の計上をしないことを選択することができます。そしてリース期間に亘って均等にリース料を計上します。ファイナンスリースとオペレーション リースの区別は従来通りの方法を踏襲します。ファイナンス リースの場合は、リース料の現在価値で資産を使用する権利を表す価値を資産として計上し、金利と減価償却は別々に計上します。キャッシュ フローステートメントでは、負債の元本の返済は財務活動、金利の返済は事業活動の中に入れます。オペレーティング リースの場合、資産、負債の計上はファイナンス リースと同じであり、リース料はリース期間に亘り、均等に計上します。キャッシュ フローステートメントの上では、支払いは全て事業活動に入れます。
貸手の会計 (Lessor accounting)
貸手の会計は、以前と変わりありません。リース料収入は、オペレーテイング リースの場合はリース期間に亘り均等に計上します。リースは、貸手にとって収益獲得のビジネスなので、リース会計は収益認識の基準 (Topic 606以前の会計原則)に準拠しております。リースが資産売却としてみなされるのかは、借手が資産の使用をコントロールしているかにより決まります。そして、リース取引の金額、タイミング、キャッシュフローなどの詳しい脚注が要求されるのです。
山口 猛、パートナー
Yamaguchi Lion LLP
8/18/2018

トランプの税法改正は、企業に大きな恩恵を与えてくれました。その中の一つが減価償却です。アメリカの企業はこの寛大なアメリカの減価償却のお陰で企業の体質を強化しているのです。アメリカの景気が底堅いのもこのような思い切った税法の改正のお陰です。

初年度一括償却
税法179条資産というのがあります。どういう資産かと言うと、機械器具、ビジネスに使用する有形の動産、ビジネス用の車(重量が6,000ポンド以上)、コンピューター、コンピューターのソフトウェア、事務所の家具、事務所で使用する器具類などです。無形資産以外のほとんどのものが入ります。これらの資産は、購入した初年度に一括償却ができるのです。ただし金額はいくらでもいいというのではなく、限度があります。昔はその限度額は50万ドルまでとなっておりました。この限度額をトランプの改正税法は、100万ドルまでに引き上げたのです。更に、投資額が一定額を超えると、この一括償却額が減額されます。その限度額は 昔は200万ドルでしたが、これが250万ドルに引き上げられました。例えば機械の購入額が、260万ドルになると10万ドルだけ一括償却額が減額されます。100万ドルの一括償却額が90万ドルになるのです。それから個人が使用する不動産以外の不動産の改造費用が新たにこの税法179条資産に加えられることになりました。例えば建物の増築とかエレベーターやエスカレーターの新設、増設、その他建物の内部構造に関連する費用、屋根、冷暖房施設、警報、安全警備システムも入ります。この改正法の適用は2018年1月1日からになります。

ボーナス減価償却
初年度一括減価償却のほかに、アメリカにはボーナス償却というのがあります。これは100万ドルの一括償却を超える設備投資や資産の購入があった場合に適用されます。例えば260万ドルの機械を購入した場合、まず一括償却で100万ドルを償却します。まだ残り160万ドルがありますので、そのうち限度額250万ドルまでの金額、即ち、150万ドルをボーナス償却として償却するのです。ただし250万ドルの金額を超える額の10万ドルは一括償却から減額し90万ドルの減価償却となるのです。合計すると240万ドルの償却です。フィルム、テレビ、劇場プロダクションが新たに該当し、電気、水道、汚物処理施設、ガス、蒸気システム、ガス、スチームのパイプライン搬送施設は除外されます。適用は2017年9月27日以降2022年12月31日まで。

高級車の減価償却
高級車は年度により償却額が異なります。初年度1万ドルから次年度以降順次16,000ドル、9,600ドル、5,760ドルとなります。
不動産に適用される減価償却期間
減価償却には一般償却と特定資産に適用される代替減価償却がありますが、賃貸用住居の代替減価償却の耐用年数が40年から30年に短縮され、事務所、レストラン、小売り店舗などの改造費の代替償却期間は一律15年となります。

山口 猛、 パートナー
Yamaguchi Lion LLP
7/20/2018

仕事の機会を生み出す税額控除
アメリカの景気は悪くはないのですが、潜在失業者の数は多いと言われております。仕事を求める市民が後を絶ちません。このような長期の失業者の為に、内国歳入庁 (Internal Revenue Service – IRS)は、彼等を雇用する中小企業の為に税金面の恩典を与えることをやっております。仕事の機会を生み出す税額控除 (The Work Opportunity Tax Credit)と言われるもので、特定の失業者を雇用する中小企業に税金面の恩典を与えるものです。
“2015年のアメリカ人を高騰する税金から守る法律 (The Protecting Americans from Tax Hike 0f 2015 -The PATH Act)”という法律がありますが、この法律の実施前,特定のグループの従業員にこの税額控除を適用しておりました。そして該当する従業員とは、2014年 12 月31日から 2020年 1月 1日までに雇用される従業員になります。更に、IRSは、この税額控除の適用を拡大したり、修正したりしております。即ち、2016年1月1日現在、少なくとも過去27週間失業し、州ないし連邦の失業手当てをこの期間中に継続的にか部分的に受けていた人たちのグループを新設して、適格長期失業手当受領者 (Qualified Long Term Unemployment Recipient)となずけました。
税額控除の計算
この税額控除は、失業し始めた時から2年間の給与の金額をベースに計算し、フォーム5884を使ってこの税額控除を請求します。フォーム5884によると、最初の1年間の労働時間の内120時間以上ただし400時間以内の給与支払額の25%, それから最初の1年間の労働時間で400時間を超える時間に見合う支払い給与額の40%, それから2年目の給与支払額の50%を計算して、これらの額を合計した金額が税額控除となります。給与の額がベースになりますので、かなり大きな税額控除の数字になります。実際には、中小企業はIRSのフォーム8850を州の労働局 (State Workforce Agency)に提出します。このフォームは、この税額控除を得るために“事前スクリーニングと証明書の請求 (Pre-screening Notice and Certification Request for the Work Opportuni9ty Credit)”のフォームと言われております。提出期限がありますが、適用を受ける従業員が働き始めてから28日以内に提出するのです。
税額控除の限度
この税額控除には限度があり、その限度は当該年度の法人税額 (Business income tax liability)か社会保障税(Social security tax)の額までとなっております。会社はこの税額控除を法人税から差し引くことができるのです。そして通常の損失の繰延べや繰戻しの規則が適用されます。免税団体の場合には、従業員に支払った給与に掛かる社会保障税の額が限度額になります。免税団体の場合には、この税額控除をフォーム5884-Cを使って請求します。このフォームは、“退役軍人を雇用する適格免税団体”となずけられております。通常の会社の場合には、この税額控除をフォーム3800を使って一般的なビジネス上の税額控除 (general business credit)として請求します。
免税団体の場合には、2014年12月31日から2020年1月1日までに働き始めた適格退役軍人に対して税額控除を請求することができます。この税額控除を得るためのフォーム8850を提出して証明書を取得した後、フォーム5884-Cを提出して、この税額控除を請求します。免税団体の場合、控除の対象になるのは雇用者の社会保障税です。一般の会社の税額控除の対象が法人税であるのに対して免税団体の場合には税額控除の対象が社会保障税である点が違います。いずれにしても、アメリカは失業者を救うためにいろいろな手を打っているのです。
山口 猛、パートナー
Yamaguchi Lion LLP
5/25/2018

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