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米国IRSが2017年度APAレポートを発表

米国公認会計士 三村琢磨(コスモス国際マネジメント)

米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2018年3月30日付で、2017年度のAdvance Pricing Agreement(以下“APA”)に関するレポートを発表しました。
APAは移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間以上)との間で予め合意又は確認し、一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスクを回避する為の最も確実な手段です。米国では1991年から行われていますが、IRSによるAPAの年次報告書は2000年以降毎年発表されており、今年で19回目の報告書となります。ちなみに、APAが世界で初めて制度化されたのは日本ですが、日本の国税庁もIRSにならって2003年以降毎年APAレポートを発表しています。2017年度米国APAレポートの概要は以下の通りです:

1.申請件数
2017年度のAPA申請件数は101件と、2016年度の98件から微増となりました。その内87件(86%)が二国間(1件の多国間APAを含む)APAで占められています。二国間APA申請件数の相手国で最も多いのは日本(38%)、次がインド(21%)となっており、米国で申請された二国間APAの6割近くをこの両国向けが占めています。2013年度から相手国のデータを公表して以来、前年の2016年度は日本が初めて首位を譲り、インドが突然首位に躍り出ましたが、今回は再び日本が首位を奪還しました。前年度は、米国とインドの間で二国間APA合意が可能になった初年度ということで、これまで蓄積されていた米印間取引が一斉にAPAを申請したことがインド向け件数急増につながったものの、通常ベースでは未だ日米間取引の占める割合が高いことを示しているとも思われます。なお、取引ボリュームの観点からは首位になってもおかしくない対中国取引については、中国が自国の税務ポジション譲歩につながる二国間APAの執行に極めて慎重であり、APA制度は存在するものの税務当局内におけるAPA担当者数が非常に少ないこともあり、個別国名が公表される上位5か国(3位カナダ、4位スイス、5位ドイツ)には入っていません。
なお前月号にて記しました通り、今年6月末、12月末と2段階にわたり米国APAフィーの大幅値上げが行われます。今後の申請件数に影響を及ぼすと思われますが、少なくとも今年度(2018年度)は駆け込み申請ニーズによる増加がみられるかもしれません。

2.処理件数
(1)全般
2017年度の処理件数は116件と、2016年度の86件に比べて+30件と大きく増加、申請件数の101件をも上回りました。但し、この大幅増加はIRSの案件処理能力が増強されたというよりも、簡単に処理できる案件が多かったという理由が大きいようです。例えば、全処理件数に占める更新(renewal)案件の処理件数は70件(全体の60%)と前年度の49件から21件増加しました。更新案件が新規案件に比べて処理が容易であるのは言うまでもありません。また、新規案件においても米国販売子会社が外国の親会社から完成品を輸入する取引など、比較的簡単な取引に関する処理が多かったのではないかとの指摘もあります。
(2)二国間APA処理件数の国別内訳
処理件数のうち85件(73%)は二国間APAとなっています。二国間APAの相手国としては、日本が57%と圧倒的にトップであり、2位のカナダ(16%)と合わせて全二国間APA処理の4分の3近くが日本又はカナダの案件であった事になります。対日本取引のシェアが未だ非常に大きい事がわかります。以下、3位韓国(9%)、4位スイス(6%)、5位ドイツ(4%)までが発表されており、上位5ヵ国でみると全体の92%を占めています。二国間APA案件の相手国は未だに一部の国に限られていることがうかがえます。2016年度に解禁されたインドは、未だ処理完了には時間がかかるようです。
(3)処理件数の業種別内訳
2017年度処理件数116件の業種別内訳では、製造業が48件(41%)と最大であり、卸売・小売業が43件(37%)、サービス業が12件(10%)と続きます。この順番は例年通りです。
(4)移転価格算定方法
比較対象企業の利益率を検証する方法であるCPM/TNMMが相変わらず大多数を占めており、有形・無形資産取引の87%で適用されています。

3.平均処理期間
2017年度の平均処理期間は39.1ヵ月と、2015年度の37.9ヵ月から一ヵ月強延びました。最悪であった2009年の45ヵ月からみると未だよいものの、IRSにおけるAPA担当者の数も米国財政赤字を背景に減少しており、苦しい台所事情がうかがえます。

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