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IRSが移転価格関連の通達を複数発行

米国公認会計士 三村琢磨(コスモス国際マネジメント)

 IRSの大企業・国際部門(Large Business and International、以下“LB&I”)は、移転価格に関する通達(Memorandum)を新年早々の2018年1月に5つ発表しました。通達という事で内容はIRS内部における調査官向けの指示になりますが、LB&Iの調査対象となる納税者(資産$10百万以上)にとっても今後の調査の方向性を示す意味で重要と思われます。これら通達に共通する主な目的は、(1)移転価格に関する税務調査の未了事案が積み上がっている一方、米国の財政赤字によりLB&Iも人を増やせず処理能力が限られる事から、極力調査の効率を上げる必要があること、(2)その一方で近年は拙い税務調査で更正課税を行った事案が次々と裁判で納税者に敗れており、調査の質を上げる必要があることの2点と思われます。5つの通達の内、(日系企業が殆ど使用しないコストシェアリング契約に係る2つを除く)3つの通達の概要を以下紹介します。

1. 移転価格IDRの発行に関する暫定指示(1/12付 LB&I-04-0118-001)
 移転価格IDR(Transfer Pricing Information Document Request)は、主に移転価格文書の提出を(通常30日以内に)要請する書状であり、これまでLB&I所管の納税者に対する移転価格税務調査時に強制的に発行されていました。それに対し本通達では、取引規模や種類等から移転価格リスクが高いと判断され、移転価格実務部門(Transfer Pricing Practice、以下“TPP”)又はクロス・ボーダー取引部門(Cross Border Activities、以下“CBA”)チームが調査に関与する場合にのみ移転価格IDRが発行され、それ以外では発行されない事となりました。
 つまり、比較的小規模又は移転価格リスクが低い納税者にとっては移転価格文書を調査時に要求されない可能性も出てくる事になり朗報です。但し、TPP/CBAがどのように移転価格リスクが高いと判断するかは不明であり、またそのようにリスクが高いと判断され移転価格IDRが送付される納税者については今まで以上に厳しい税務調査が予想されます。

2. 最適な移転価格算定方法の選定に関する指示(1/29付 LB&I-04-0118-006)

 IRSが移転価格税務調査を行う際、納税者が移転価格文書で示した移転価格算定方法を最初から無視し、異なる算定方法を最適な算定方法(Best Method)と半ば押し付ける形で強引な課税を行う事がありました。それに対し本通達では、まずは納税者が選択したBest Methodからスタートし、納税者が選択した方法を徹底的に分析する必要があるとしています。その上で、納税者が選択したBest Methodを変更することが適切であると判断した場合、IRS内の移転価格実務に係る上級管理者等から構成される移転価格レビューパネルの承認を取得する必要があるとしています。移転価格レビューパネルは主に以下3つの問題を検討します:(1)納税者の選択した方法が信頼できない理由、(2)納税者の選択した方法を調整して信頼性を高めることができるかどうか、及び(3)そうでない場合、どのような方法がより信頼性が高いか、又なぜか。
 なお、納税者が選択したBest Methodの範囲内で、その適用方法を変更(例:比較対象企業の選択に関する議論)する場合、及び納税者が移転価格税制に則った適切な移転価格文書を準備していない場合、本通達は適用されません。つまり、適切な移転価格文書を準備しておくことによりIRSの恣意的な執行を防げる可能性がより高まることから、今まで以上に移転価格文書作成の重要性が高まるといえます。

3. 移転価格ペナルティの適切な賦課に関する指示(1/12付 LB&I-04-0118-003)

 米国では、適切な移転価格文書をIRSの要求から30日以内に提出できず、且つ更正所得額が一定基準を上回る場合、移転価格ペナルティ(20%又は40%)が賦課されます。これに関して本通達では、単に移転価格文書の有無をペナルティ賦課の判断基準とせず、納税者が作成・提出した移転価格文書が適切であるか否か(=ペナルティ賦課の是非)を詳細に評価する必要があるとしています。その際、納税者が入手可能な情報にアクセスし、合理的な分析努力を行っているかについても評価するよう指示しています。

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