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再びGoogleの租税回避報道

米国公認会計士 三村琢磨(コスモス国際マネジメント)

 初めてGoogleの租税回避報道が行われてから約7年、2018年新年早々に、7年前当時と全く同じ方法で同社が依然巨額の節税を行っている事が報道されました。以下、米国大手メデイアBloombergの記事の概略を紹介します。

1.記事の概略
 持株会社Alphabet Inc.傘下のGoogleは、2016年において、バミューダに所在する実体のない関連会社に、前年比7%増の159億ユーロ(約2兆1千億円)の所得を移していたことが、オランダにおける公的書類から明らかになった(最初に報道したのはオランダの新聞)。Googleは、米国外所得の大部分を税金から守るために、「Double Irish」と「Dutch Sandwich」という2つのスキームを用いる。これにより、まずアイルランド子会社から従業員のいないオランダ関連会社に所得を移し、次にアイルランドに登記された別の関連会社(住所はバミューダ)に移転する。
 Googleは「私たちは、全ての税金を払い、世界中の全ての国の税法を遵守している」との声明を発表したものの、実際には十分な税金を払っていないため、世界中の当局から圧力を受けている。同社はアイルランド子会社が欧州など各国で広告事業主として売上を計上しているが、恒久的施設を有しない為各国は税金を課すことが出来ず、そこでも巨額の税金を逃れている。欧州連合(EU)は、類似の税金逃れを行っている多くの米国IT企業に、より多くの税金を払わせる方法を模索している。
 アイルランド政府は、2015年より Double Irish の新規適用を廃止したが、既にこのスキームを使用しているGoogleなどの企業は、2020年末まで使用が認められている。
 米国のSEC提出資料によると、2016年のGoogleの世界全体の実効税率は19.3%(米国の実効法人税率約40%にもかかわらず)で、海外部門の所得の大部分をバミューダ(登記はアイルランド)にシフトさせることによって達成されているはずであり、Googleは2016年に37億ドル(約4,100億円)を節税している計算になる。
Googleの開示資料によると、同社は2016年末に米国外に607億ドル(7兆円弱)を抱え、米国の法人税や外国源泉徴収税を払っていない。
米国の税法は長年にわたり、米国企業が海外で得た利益を米国に還元するまで米国の税金を繰り延べることで、海外所得をオフショアで維持するインセンティブを与えていた。しかし、先月成立した米国の新しい税法では、現在までに蓄積された未課税海外利益の15.5%(現金又は同等物の場合、それ以外は8%)に対して課税されることになる。

2.スキームの概要(復習)及びコメント

(Googleの海外節税スキーム略図)

 
(図における取引番号①~⑤は全てグループ間取引)
① 海外事業に関する権利のライセンス付与
② ライセンスフィー支払(実際にはライセンスを買取した等の理由で米国には殆ど払っていないと推定される)
③ サブ・ライセンス付与
④ ⑤ サブ・ライセンスフィー支払い
 
 
 
 

 今更ではありますが、上記スキームは税法上合法とはいえ、個人的に最も奇異に感じるのは、Google Ireland Ltd.が各国で直接広告主となり巨額の広告料を得ていながら、各国(日本も含む)で恒久的施設が無い事を理由に税金を払っていないという事です。それでもまだフランスなど欧州各国では、このような異常な状況を打開しようとする動きが見られますが、日本においては何も伝わってこないのが寂しい限りです。Googleの日本法人も詳細は不明ですが相応な規模と言われており、Wikipediaによると日本法人の2015年度の純利益は42億円である事から、相応の税金を払っている可能性はあります。しかし、AdWordsなどの広告料がアイルランドに流れ直接課税できていないことにより日本の税務当局がGoogleから取り損ねている税額はそれを遥かに超える巨額に上ると推測されます。
 それにしても、当初(2010年後半)の報道時、Googleは本スキームにより2007~2009年の3年間で31億ドルの節税を行っていたとの事でしたが、今回報道における同じBloombergの算出では、2016年1年間で37億ドルとなっています。7年前の報道が、OECD主導のBEPS(Base Erosion and Profit Shifting)対策プロジェクトという世界的な租税回避防止策が大規模に展開される端緒となったと言われるほど批判に晒されたにもかかわらず、それ以来節税規模を3倍以上に増長させているGoogleの堂々とした振る舞いには驚くばかりです。今回の米国税制大改正により、Googleがバミューダに蓄積した利益に対してもようやく課税が行われるはずであり、またBEPS対策プロジェクト実施をはじめ主要国の租税回避阻止の動きは益々強まると思われる中、今までは非常にうまく立ち回っており、巨額の追徴課税を受けたという話さえ殆ど伝わってこないGoogleに対し各国がどれだけ対抗できるのか、引続き注目したいと思います。

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