在米日系企業は、通常日本の親会社の下にアメリカの子会社が位置する形で存在します。この在米日系企業のビジネスを運営するために、親会社は一定の資本金を出資し、必要に応じて子会社に対してローンを提供します。子会社は、このローンに対して金利を払い、その利息を経費として課税所得から控除します。問題は、アメリカの税務当局から見ると、本来、資本金として出資すべきところを貸付金として計上して利息を得、子会社は利息を経費として損金処理することです。これを防止するために、内国歳入庁 (Internal Revenue Service ? IRS) は、税法 (163 (j))という規則を制定しております。利益を剥奪する規則 (Earnings Stripping Rule) と言います。この規則は、次の条件に当てはまるときに、在米日系企業が支払った利息の控除を否認するというのです。その条件とは、1. 負債資本比率が1.5-1を超える場合、すなわち負債が多すぎる場合、2. 支払い利息(金利収入と相殺した後)が課税所得の50%を超える額は否認する (50%を超えて否認された利息は将来に繰り延べることができる)、3. 利息が課税を免除される関連会社に支払われる場合です。
関連会社間の取引に関する税法には、規則385条というのがあり、親会社からのローンに関する利息の支払いもこの中に含まれます。4月にこの税法385に関する改正規則が発表されたときに、多くの多国籍企業が苦情を申し立てました。あまりにも範囲が広すぎ、親会社などの関連会社からのローンの書類が多すぎる、複雑すぎると言った苦情です。これに対応して、2016年10月13日に、IRSは新たに規則を発表したのです。ビジネス界、税務専門家、弁護士、一般の人達の声を聞き、特に積極的に税の支払いを逃れようとする人たちに焦点を絞って規則の改正をするように努めたようです。全ページが518ページの規則ですから、相当に複雑になるようです。主な改正点は次の通りです。
1. 米国企業の米国外関連会社におけるローン取引は対象から外す。日本の親会社からローンを受ける米国子会社は、この規則に該当するので以前通り、注意が必要です。
2. 小規模会社 (S Corporation)、支配されない規制会社 (Non-controlled regulated Investment Companies (RICs)、不動産投資信託 (Real Estate Investment Trusts (REITs)は、対象から外す。
3. キャッシュ・マネージメント契約、その他の短期のローンも除外する。
4. 規制された金融グループや保険会社が発行するローンも対象から外す。
5. 書類の整備に関する規則の実施日を2018年に延期する。
6. 30日の規則を適用する代わりに、税金申告書が提出された時点で、書類は完備したものとする。
親会社からローンを受ける日系企業は、継続して注意を払う必要があります。
山口 猛、パートナー
Yamaguchi Lion LLP
2016年10月