Blog

米国における税務リスク開示状況(2016年8月SEC提出分)

米国会計基準の解釈指針第48号(“FIN48”)「法人所得税の不確実性に関する会計処理」は、50%超(More likely than not)の確率で税務当局に認められると評価されない不確実な税務ベネフィット(Unrecognized Tax Benefit、以下“UTB”)を算定の上、負債及び税務引当金として計上する旨規定しています。且つ、米国上場・店頭公開企業(本社が米国外の外資企業も含む)は、SEC(証券取引委員会)に提出する年次又は四半期報告書等の開示資料においてそれら金額を開示しています。
Bloomberg BNAの移転価格レポート(以下“BNAレポート”)では、最近このFIN48開示情報を月次でまとめています。本稿で前回紹介(TOPIC 16-05参照)してから半年が経過し、2016年上半期に関する開示を行う企業が多い時期でもある事から、8月にFIN48の開示を行った上場24社の開示内容をBNAレポートがまとめたものを、筆者が以下5類型に分類した上、幾つか抜粋して紹介します。

① (移転価格を含む)更正課税を最近受けた事を開示した企業(9社)

ArcelorMittal SA(世界最大の鉄鋼会社。ルクセンブルグ):ウクライナの税務当局よりUSD60百万相当の移転価格更正課税を受けたが、控訴審で勝訴し税務当局が上告を取り下げた事により終結したと発表した。
Autodesk Inc.(設計用ソフトウェア開発。カリフォルニア州):2004~2013年度を対象に中国で受けている税務調査に関して和解案を提示し、現在は中国国家税務総局にて検討中。推定追徴額(利息含む)はUSD11.4百万。
Diageo Plc(酒造メーカー。英国):移転価格税務調査に関し韓国の税務当局と和解の結果、£146百万(約USD193百万)の税務引当金を計上した。
Maxim Integrated Products Inc.(集積回路メーカー。カリフォルニア州):2009~2011年度を対象とする無形資産関連コストシェアリング取引及びbuy-in支払取引についてIRSから更正課税通知を受け、異議申し立てする予定であることを発表した。

② (移転価格を含む)税務調査や追徴課税が行われた事、又はそれによるUTBの増額や法人税実効税率の上昇を開示した企業:5社

II-IV Inc.(先端材料品・電子部品等製造。ペンシルヴァニア州):移転価格関連のUTBがUSD2.15百万増加した。
Fortinet Inc.(ネットワーク・セキュリティ製品、カリフォルニア州):移転価格課税、及びストックオプション費用に関する新しい経理方針の採用により、2016年上半期の実効税率は前年同期の54%から111%に上昇した。
Kellogg Co.(シリアル食品。ミシガン州):移転価格の理由により、1年以内にUTBがUSD8百万増加の予定。

③ UTBが減額されたか、又は今後減額される見込みである事、またそれに伴う実効税率低下を開示した企業:3社

Boston Scientific Corp.(医療機器製造。マサチューセッツ州):移転価格を含む税務問題の解決により、今後1年以内にUTBの最大USD767百万減少が合理的に期待できると発表した。
Handy & Harman Ltd.(産業機器、建築資材等製造。ニューヨーク州):中国関連者との取引の移転価格設定に関し米国当局と和解しUSD58.4百万の還付を受けたこと、その結果実効税率が2014年度の33%から31%に低下したことを発表した。
Hyatt Hotels Corp.(ホテル運営。イリノイ州):移転価格の変更による税務ベネフィット計上(2016年第2四半期にUSD19百万)により、実効税率が50%から24.7%へと低下した。

④ APAなど税務当局との交渉についての事実を開示した企業:4社

Broadridge Financial Solutions Inc.(金融サービス。ニューヨーク州):米国-カナダ間二国間APAの締結により、カナダ子会社がUSD26.1百万の還付を受けたことを発表した。
Immucor Inc.(医療検査関連製品。ジョージア州):カナダ子会社との取引に関して、米国-カナダ間二国間APAを申請、両国税務当局と交渉中であると発表した。

⑤ Altera判決による税務ポジションの変化を開示した企業:3社

Altera判決(TOPIC 15-16参照)を受け、コストシェアリング契約で関連会社と分担すべき費用からストックオプション費用を外す企業が続出しており、今回も3社がその旨を公表しています。通常、国外の子会社への費用分担を止めて税率の高い米国本社がその費用を損金算入するよう変更すれば、実効税率は下がり税務ベネフィットが発生しますが、今回の3社の中ではTripAdvisor Inc.(旅行口コミサイト運営。マサチューセッツ州)のみが、Altera判決効果による税務ベネフィット(2015年通年USD13百万、2016年上半期USD2百万)の具体的金額を公表しています。
IRSは予算不足による人員減に悩まされており、移転価格税務調査に外部のコンサルタントを雇用するなど苦労しているようですが、本レポートの通り調査対象企業も小規模化しており、中小企業でも油断はなりません。

米国公認会計士 三村琢磨(2016年10月)

コメントを残す

Your email address will not be published. Required fields are marked *

Copyright @ 2016 Yamaguchi Lion LLP | All Rights Reserved