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米国IRSがAPAレポートを発表

米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2016年3月31日、2015年度のAdvance Pricing Agreement(以下“APA”)に関するレポートを発表しました。
APAは米国では1991年から行われていますが、IRSによるAPAの年次報告書は2000年以降毎年発表されており、今年で17回目の報告書となります。ちなみに、APAが世界で初めて制度化されたのは日本ですが、日本の国税庁もIRSにならって2003年以降毎年APAレポートを発表しています。2015年度米国APAレポートの概要は以下の通りです:

1.申請件数
2015年度のAPA申請件数は183件と、2014年度の108件に比べ+75件(+69%増)と急増しました。これは、米国ではAPA申請料をIRSに支払う必要がありますが、その申請料が2015年12月29日以後の申請分より値上げ(新規申請の場合$50,000→$60,000へ)されることから、値上げ前の駆け込み申請が殺到したことによるものです。
183件のうち131件(71%)が二国間(多国間を含む)APAで占められています。二国間APAの相手国で最も多いのは日本(39%)、次がカナダ(17%)となっており、米国で申請された二国間APAの半分以上をこの両国向けが占めています。特に対日本の割合は、2013年度の51%、2014年度の41%から徐々に減ってはいるものの、引き続き他国を引き離して最大の相手国となっています。

2.処理件数

(1)全般
2015年度の処理件数は110件と、2014年度の101件に比べて+9件増加しました。但し、処理件数全体に占める新規APAの処理件数は44件(全体の40%)と、2014年度の53件(全体の52%)から件数も割合も減少しました。また、過去最高値である2013年度の145件には未だ遠く及びません。APAプログラムが相互協議部門と統合してAPMA(Advance Pricing and Mutual Agreement) Officeとなった新生APA部門が前directorであるRichard McAlonan氏のリーダーシップの下で進めてきた処理の迅速化が、同氏や他の改革派の幹部が一斉に退職した事も影響してか2014年に大きくとん挫した影響が未だ残っていると思われます。

(2)二国間APA処理件数の国別内訳
 処理件数のうち80件(73%)は二国間APAとなっています。二国間APAの相手国としては、日本が46%と圧倒的にトップです。以下カナダ(23%)、デンマーク(5%)、ドイツ、韓国、オランダ、スイス(各4%)と続きます。APAは一般的に税務リスクの高い大規模な取引について申請されますので、米国にとって対日本取引のシェアが未だに大きい事がわかります。

(3)処理件数の業種別内訳
2015年度の処理件数110件の業種別内訳としては、製造業が44件(40%)と最大であり、卸売・小売業が39件(35%)、サービス業が12件(11%)と続きます。この順番は例年通りですが、製造業のシェアが2014年度の47%から低下しています。ちなみに日本では処理件数に占める製造業の割合は62%(平成26事務年度)と米国よりも大分高くなっています。

(4)移転価格算定方法
 比較対象企業の利益率を検証する方法であるCPM/TNMMが相変わらず大多数を占めています。
有形・無形資産取引:CPM/TNMM 79%、独立取引比準法(CUT法)11%、利益分割法 7%
役務提供(サービス)取引:CPM/TNMM 85%、サービスコスト法 11%
一方日本ではTNMM 50%、原価基準法 12%、利益分割法 7%(平成26事務年度)と、米国よりもTNMM依存度は一見低いように見受けられますが、「その他の方法」が28%もあり、この中にTNMMそのものではないものの、それに準じた方法がかなり含まれていると推測されます。

3.繰越件数
上記の通り、申請件数が処理件数を大幅に上回ったことから、2015年12月末の繰越件数は410件となり、2014年末の336件から大きく(+74件)増加しました。

4.平均処理期間
平均処理期間については、2014年度38.3ヵ月から2015年度は36.7ヵ月(約3年)と、若干短縮しました。とにかく処理期間が長すぎると悪評であった以前(2009年は45ヵ月)からみると大分改善してきましたが、日本のAPA平均処理期間の22.2ヵ月(平成26事務年度)に比べると未だ1年強長くなっています。

 

米国公認会計士 三村琢磨(2016年6月)

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