アメリカの税法は、非常に難解なことで有名です。一般の市民は勿論、専門家でもその難解さに頭を悩ませるのです。このような難解な税法がどのようにして出来たのでしょうか。アメリカの最初の税法は、１９１３年に出来ました。当初は、お金持ちだけを対象にして制定され、一般の人達は税金を払う必要がなかったのです。しかし第二次世界大戦になって真珠湾攻撃がなされた後、アメリカは戦争を続ける為に多額の金が必要になったのです。全国民が税金を払わなければならなくなりました。それまでは、アメリカ人は物を買ったときに税金を払うことはありました。すなわち、セールス タックス（商品の小売価額に掛かる税金）です。しかし所得税と言うのは払ったことがなかったのです。その結果、納税者の数が２，６００万人から４，０００万人に増えたのです。昔は、３月１５日が個人の税金申告書の締め切り日でした。現在、個人所得税の締め切り日は４月１５日です。アメリカ人は、税金を払うことは、好ましくは思わなかったようですが、戦時下の愛国心で、この税法を認めるようになったのです。ですから現在の税法は、改定はされるものの基本は１９４２年当時の税法が基礎になっているということです。アメリカ人は、何か見返りがあるのであれば、税金を支払うことはやぶさかではないと思っているようですが、もし、何も見返りがなく、税金が無駄使いされていることには、我慢がならないのです。
アメリカでは、このような税法を根本的に変えようとする動きがあります。バージニア州出身の共和党の上院議員のBob Goodlatte氏が税法廃止法案(Tax Code Termination Act)というのを議会の小委員会 (Sub committee)に提案しました。
現在、下院に提案されている議案は、H.R.27と称され、Bob Goodlatte氏のほか、南カロライナ州のMr. Marino, Mr. Joyce, Mr. Walberg, Mr. Wiｌson, テキサス州のMr. Flores, Mr. Poe, アリゾナ州のMr. Pittenger, Mr. Frank, テネシー州のMr. Mulvaney, Mr. Yoho, Mr. Jones, Mr. Chabot, Mr. Duncan、テキサス州の, Mr. Long, Mr. Sensenbrenner, Mr. Bilirakis, Mr. Garrett, Mr. Griffith, Mr. Culberson, Mr. Amash, Mr. Schweikert, Mr. Amodei, Mr. Westmoreland, Mrs. Blackburn, Mr. Weber、その他の州のMr. Forbes, Mr. Newhouse, Mr. Gosar, and Mr. Woodallが提案しました。内容は次の通りです。
１９８６年に制定された税法を廃止することであり、“税法廃止法案”となっており、正確には、“１９８６年の税法の廃止 (Termination of Internal Revenue Code of 1986)”となっております。そしてこの法案では、１９８６年の税法による税金は一切課税しないと言うのです。2019 年12月 31日以降の実施となっております。例外として、次の税金は、従来通り継続します。即ち、自営業に関連する所得に掛かる税金 (Chapter 2 of such code relating to tax on self- employment income)、社会保障税に掛かる税金 (Chapter 21 of such code relating to Federal Insurance Contributions Act)、鉄道年金に掛かる税金 (Chapter 22 of such code relating to Railroad Retirement Tax Act)です。そして新しい税法のシステムとして、次のような基本的な考え方を提示しております。税金は簡単にして、公平な税金であること。具体的には、１．低い税率の税金をすべてのアメリカ人に課すること、２．働くアメリカ人を優遇すること、３．納税者の権利を守り、徴税の乱用を防止すること、４．貯蓄と投資の差別をなくすこと、５．経済成長と仕事の創出を図ること、６．結婚している人や家族がいる人達を差別しないことなどです。このような税法が出来るのは、勿論、歓迎なのですが、実現するには、相当の困難が予想されます。国の税収にかかわる根本的な問題だからです。しかし、議員たちは真剣に討議しております。実現しないかもしれませんが、興味深い話題ですね。
山口 猛、パートナー
Yamaguchi Lion LLP
4/18/2016