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米国における税務リスク開示状況(2015年度)

米国会計基準の解釈指針第48号(“FIN48”)「法人所得税の不確実性に関する会計処理」は、50%超(More likely than not)の確率で税務当局に認められると評価されない不確実な税務ベネフィット(Unrecognized Tax Benefit、以下“UTB”)を算定の上、負債及び税務引当金として計上する旨規定しています。且つ、米国上場・店頭公開企業(本社が米国外の外資企業も含む)は、SEC(証券取引委員会)に提出する年次報告書(10-K)等の開示資料においてそれら金額を開示しています。

昨年(TOPIC 15-07参照)同様、今年も2015年度10-K等直近のFIN48開示情報をBNAレポートがまとめました。12月を期末とする多くの企業が開示報告を行う時期でもあり、41社が紹介されています。最近の移転価格税務執行状況を把握する意味で有用と思いますので、上記BNAレポートから内容的に以下4つに分類した上で、幾つか抜粋して紹介します:

① (移転価格を含む)更正課税を最近受けた事を開示した企業(12社)

Corning Inc.(ガラス製品等。NY州):移転価格更正課税によりネット(相互協議による減額相殺後)で$63百万の税務費用を計上した。
Jazz Pharmaceuticals Plc(バイオ技術。アイルランド):フランスの税務当局より2012~2013年度に関して$41.8百万相当の移転価格更正課税案を提示された。
LinkedIn Corp(ビジネスネットワークサイト運営。カリフォルニア州):移転価格更正課税に関してIRSと和解し、$400千を現金で追徴支払した一方、$5.9百万を税務ベネフィットとして計上した。
Tempur Sealy International Inc.(“テンピュール”ブランドのマットレス、枕等。ケンタッキー州):デンマーク子会社への2001~2008年度のロイヤルティ支払に関して、課徴金等含め計$215百万相当の移転価格更正課税をデンマークの税務当局より2014年11月に受け、現在は同処分を不服として係争中。
TripAdvisor Inc.(旅行の口コミサイト運営。マサチューセッツ州):IRSより2009~2010年度に関する移転価格更正課税案を提示され、更に追加で提示される見込み。

② (移転価格を含む)税務調査が現在行われている事、又はそれによるUTBの増額や法人税実効税率の上昇を開示した企業:13社

Marriott International Inc.(ホテル事業。メリーランド州):米国での移転価格税務リスクにより、2015年度にUTBが$14百万増加した。
MicroSemi Corp.(半導体、ハイテク製品、カリフォルニア州):IRSより2007~2012年度の税務調査で移転価格の問題を指摘された。
Primero Mining Corp.(鉱山会社。カナダ):メキシコ税務当局から採出鉱物価格に関する指摘を受けており、APA取得が困難になった。
Steven Madden Ltd.(靴のデザイン・販売。NY州):IRSが2013年度に関する税務調査を開始。

③ UTBが2015年度に減額されたか、又は今後1年以内に減額される見込みである事を開示した企業:14社

Cisco Systems Inc.(ネットワーク機器製造。カリフォルニア州):今後1年以内に移転価格問題の解決によりUTBが$200百万減少の見込。
IBM Corp.(ハイテク・コンサルティング。NY州):2015年12月末の移転価格関連税務負債が$850百万減少。
McDonald’s Corp.
(ファーストフードチェーン。イリノイ州):海外における移転価格税務調査終結の影響を含め、UTBが今後1年以内に$250百万減少の見込。
SPX Flow Inc.(産業機械製造。ノースカロライナ州):今後1年以内に移転価格も含めたUTBが$1百万減少して$3百万になる見込。

④ APAなど税務当局との交渉についての事実を開示した企業:6社

Allergan Plc(製薬会社。アイルランド):買収した企業が元々IRSと締結していたAPAの期限を2017年から2015年とする事でIRSと合意した。
United Parcel Service Inc.(貨物運送会社。ジョージア州):小口貨物配送サービスに関する2010~2019年度を対象とした2つの二国間APAを2015年に締結した。
Wesco International Inc.(電力配送。ペンシルベニア州):米国-カナダ二国間APAを2015年第4四半期に締結した。

上記①~④の合計が41社を超えるのは、多少の重複がある(例:LinkedIn Corpのように、追徴課税が行われた事で税務ポジションが確定し不確定リスク額が減少した)為です。いずれにせよ、未だに多くの企業が直近で課税を受けたか、又は追加の課税リスクに直面している事がうかがえます。IRSは予算不足による人員減に悩まされており、移転価格税務調査に外部のコンサルタントを雇用するなど苦労しているようですが、上場企業に対してはかなりの確率で移転価格税務調査を行っており、調査対象企業も小規模化していることが本レポートからうかがえますので、油断はなりません。
(引用:Bloomberg BNA Transfer Pricing Report)

 

米国公認会計士 三村琢磨(2016年4月)

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