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米国がCbCレポートの規則案を発表

BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトにおける行動13のOECD最終報告「移転価格文書化」では、マスターファイル、ローカルファイル、CbC(Country-by-Country)レポートという3層構造の移転価格文書化が行われるべき事が示されました。これを受けて、関係各国は自国の移転価格税制を改正する必要に迫られています。米国IRSは2015年12月21日にCbCレポート規則案(REG-109822-15)を発表しました。

CbCレポートとは、国外関連会社情報の開示フォームのことです。日本は法人税申告書の別表17(4)、米国はForm 5471及び5472など、各国の税務当局はそれぞれ国外関連者情報の開示フォームを有しています。それらに対しCbCレポートの場合、ある多国籍企業グループの最終親会社が国外の全グループ会社の事業内容、損益、納税額、従業員数、資産等について(国毎にまとめて)自国税務当局に提出後、そこから租税条約を締結する関係各国(グループ企業が所在する国)に送られます。よって関係各国は、多国籍企業の損益、資産、納税額等に関する世界的な配分状況が把握でき、自国のグループ会社の利益率が不当に低い場合など税務調査のきっかけをつかむことができます。例えば日系企業の米国法人の場合、Form 5472では日本の親会社及び米国法人と取引のある関連会社間取引情報のみIRSに開示されますが、CbCレポートでは欧州、アジアなど世界各国のグループ会社の数字がすべて開示されます。IRSは日本の本社から国税庁を経由して送られてくるCbCレポートをみて米国子会社の損益が不当に低いと判断すれば、米国子会社に移転価格税務調査に入る可能性があります。

CbCレポート規則案の概要

(1)報告形式

CbCレポート規則案(以下“規則案”)には、OECD最終報告で表示されたものと全く同じフォームが表示されています。規則案では、「IRSは現在正式なフォームを作成中であるが、OECDのフォームにおける開示内容は十分な検討を経て作られたものであり、米国としても税務執行改善に役立つものと認める」とのコメントがありましたので、最終規則でも開示項目は基本的には変わらないと思われます。
フォームは主に2つあり、一つは、全グループ会社を税務上の管轄国毎に並べ、各企業の主な事業内容(研究開発、無形資産の保有管理、購買、製造、販売、管理、第三者向けサービス、グループ金融、認可された金融サービス、保険、持株会社、休眠会社、その他の計13項目)の該当欄にチェックを入れるフォームです。もう一つは、税務上の管轄国毎に売上高(第三者向け、関連者向けの内訳有)、税引前利益、支払法人税額(現金ベース及び会計上)、資本金、剰余金、従業員数、有形資産額(現金等を除く)の各数字の国別合計を記入するフォームです。
このフォームにより自国のグループ会社の世界全体に占める各項目の割合が把握できることから、税引前利益や納税額の割合が従業員数や有形資産額の割合に比べて低いという理由で、正式な移転価格算定方法に基づかない簡易的な按分課税が行われるリスクがあると従来から指摘されています。それに対し規則案では、「CbCレポートのみを用いて最終的に移転価格課税が行われることはない。但し移転価格及びその他の税務調査の際に、追加の質問を行うための手段として用いることができる」としており、簡易的な按分課税が直接的に行われることはないことを示しています。

(2)対象企業

CbCレポートを提出する必要のある企業は、多国籍企業グループの最終親会社で米国に所在し、連結売上高がUSD850百万(1,020億円)以上の会社としています。これはOECD最終報告における要件である連結売上高?750百万(約1,000億円)とほぼ符号しています。ちなみに、2015年12月16日に発表された日本の2016年度税制改正大綱においても、CbCレポート(国別報告事項)を提出する必要があるのは連結売上高1,000億円以上の日本法人(で且つ連結財務諸表を作成する必要のある最終親事業体)となっており、これもOECD最終報告を遵守しています。

(3)情報漏えいの懸念への対処

これも以前より懸念されていることですが、本社が自国の税務当局に提出したCbCレポートが租税条約相手国に自動的に送られるとなると、相手国側の税務当局にとっては便利でよいでしょうが、企業側及び自国の税務当局とっては、相手国の税務当局は守秘義務を本当に守ってくれるのだろうか(特にOECD加盟国以外の国においてはそのようなモラルを持ち合わせているだろうか)という懸念が生じます。
規則案では、「相手国に守秘義務順守に関する懸念があると米国が判断した場合は、CbCレポートの自動情報交換を停止する」と書かれています。一部の議員は“米国軍事企業の財務情報等が軍事同盟を結んでいない国にわたることは国家安全保障上禁止すべきである”と主張しているようですが、そのような例外を認めてしまうと他国も追随するでしょうから、規則化するのは難しいと思われます。

(4)提出期限

規則案では、提出期限は米国最終親会社の法人税申告期限(延長も含む)としています。OECD最終報告では、対象年度終了後1年以内としており、前掲の日本の税制改正大綱でもそれを受けて「最終親事業体の会計年度終了の日の翌日から1年を経過する日まで」となっているのに対して提出期限が早くなっており、場合によってはグループ子会社の財務データが提出に間に合わない等の事態も考えられます。

(5)施行日

規則案は、12月23日以降90日間でパブリックコメントを募集した後、最終化される見込みですが、施行日は最終規則が交付された日以後に開始する事業年度よりとなっています。そうなると、最終化はほぼ間違いなく2016年3月以降になりますので、米国系企業の大多数を占める12月決算の企業は、2017年度がCbCレポート提出の対象初年度となる見込みです。
しかしOECD最終報告では2016年度からの適用を推奨しており、日本の税制改正大綱でも「2016年4月1日以後に開始する最終親事業体の会計年度に係る報告事項より」適用開始としており、日本企業の大多数を占める3月決算企業は2016年度からの適用が予定されています。米国が1年遅れになることについて、ただでさえBEPSプロジェクトは米系企業を主なターゲットとしているところ、OECDや他国から批判が起こることが予想されます。

日系企業の留意点

既に述べた通り、CbCレポートは最終親会社がその国の税務当局に提出するものですので、上記で説明した米国CbCレポート規則案はあくまで米国系企業に適用されるものです(但しCbCレポートの開示内容は共にOECD最終報告に基づく為日米同じと思われます)。日系企業の場合、日本の最終親会社が日本の改正移転価格税制の要件(連結財務諸表を作成する連結売上高1,000億円以上の会社)に合致すれば日本の国税当局にCbCレポートを提出し、そこからIRSに送られてくるはずです。その送られてきたCbCレポートが、他国の子会社に比べ米国子会社の利益率が低い等IRSを刺激する内容であると、今までIRSの税務調査が入ったことのなかった米国現地法人にも調査が入る可能性はありますので、3月決算の親会社がCbCレポートを日本で提出する現地法人は、2016年度からより入念な準備がのぞまれます。

 

米国公認会計士 三村琢磨(2016年1月)

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