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OECDによるBEPSアクション・プランの発表

 モスクワにおけるG20財務相会議の開幕日である7月19日、経済協力開発機構(OECD)のガリア事務総長は、税源浸食と所得の移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下“BEPS”)に対するアクション・プラン報告書を発表しました。米国系を中心とする多国籍企業が所得を低税率国に移転するアグレッシブな節税の実態が最近相次いで明らかになってきたことを受け、OECDはBEPSの問題に本格的に取り組み始め、今年2月に初のBEPS報告書を発表、租税回避を発生させる様々な要因を分析しましたが、今回報告書では15項目の対策案(以下概要を記載)が発表されました。

(1)デジタル経済
納税義務が無い国における企業の電子上の存在、電子商品・サービス使用に関する各地域データの価値の帰属、新たなビジネスモデルから生じる所得の性質等について調査する。

(2)複合的なミスマッチ取引
ハイブリッド取引による二重非課税、二重控除、長期の課税繰り延べの発生を防止すべく、OECDモデル租税条約や国内法を見直す。

(3)タックスヘイブン合算税制
BEPSに対応しきれていない多くの国の合算課税ルール強化に関する推奨案を策定する。

(4)利息控除
主に関連者間金融取引による過大な金利控除等を防止するため、金融取引に関する移転価格ガイドライン等の改正案を策定する。

(5)有害な税慣行
既に行っている有害な税慣行への取組みを見直し、透明性の改善等に努める。

(6)租税条約の濫用
モデル租税条約や国内法改正の提案により、二重非課税状態等を発生させるような租税条約の濫用を防止する(本件は、複合的なミスマッチ取引への対策と連携して行われる)。

(7)恒久的施設(PE)
コミッショネア契約の利用等により意図的にPEの適用を逃れる事を防止するため、PEの定義の変更を検討する。

(8)無形資産
(i)広範で明確な無形資産の定義、(ii)無形資産から生じる収益はその価値創出に比例して配分されるべき、等を含むBEPS防止の為の無形資産関連移転価格規則を改正する(現在OECDガイドライン改正作業中)。

(9)リスク及び資本
関連会社間でリスクや資本の配分のみを理由とし価値の創出に比例しない不適切な所得移転を防止するための移転価格規則を作成する。

(10)リスクの高い取引
第三者間では通常発生しない取引を関連会社間で行う事による所得移転を防止する。特にマネジメントフィー支払等に注意する。

(11)BEPSデータ
税源浸食と所得移転に関するデータの収集、分析及び活用方法を確立する。

(12)強制開示ルール
アグレッシブな節税スキームを有する納税者に対し、それらスキーム等の開示を強制するルール作りに取り組む。

(13)移転価格文書
多国籍企業が所得、経済活動及び支払税額に関するグローバルな配分状況を開示する義務を含む文書作成ルール改正に(企業のコンプラアンス費用も考慮しつつ)取り組む。

(14)二重課税解消手段
多くの租税条約における仲裁規定の未整備や、相互協議の適用が認められないケースへの対応を含め、紛争解決手段の有効化を図る。

(15)多国間協定
多国間の枠組みで協定を作成することにより、二国間租税条約をいちいち改正する手間無しに加盟各国が税務執行を行えるような仕組みを検討する。

期限:本報告書は、上記プランは概ね2年以内には行われるべきだが、プラン毎に若干の差異が生じるであろうとしています:

コメント:本アクション・プランは米系多国籍企業のアグレッシブな節税への対策を主眼としていることは明白ですが、OECDのガイドラン自体には法的拘束力はないことから、これらのアクションにより抜け穴が多いとされる米国の税制がいかに改正されるかがポイントでしょう。また、OECD加盟国である日本においても移転価格税制をはじめとする国際課税が更に強化されることは間違いないでしょう。日本の課税当局は、これを機にAmazon.comのような日本で相当な売上を上げながら法人税を払っていない海外ネット企業に対する課税を目指しているはずであり、今後の動向が注目されます。

米国公認会計士 三村琢磨(2013年8月)

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