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米国で相次ぐ巨額の国際課税~医療業界がターゲットに

米国IRS(内国歳入庁)が、移転価格税制に基づき10億ドル(約850億円)以上の巨額の所得更正を行った事例が、最近相次いで明らかになりました。もともと米国は移転価格税制のパイオニアであり、米国外への租税回避に対する厳しい税制を有していますが、現オバマ政権が国際課税の更なる強化を打ち出していることも、IRSの課税執行を後押ししていると考えられます。以下に紹介の通り、医療機器メーカー、製薬などいわゆる医療業界が主なターゲットとなっています。

1. Boston Scientific (Guidant)

医療機器の開発・製造会社であるボストン・サイエンティフィック社に対し、IRSは2010年12月、10億ドルの移転価格所得更正を行いました。更正の理由は、同社が2006年に買収した心臓医療機器メーカーのGuidant社において、2001年及び2002年においてGuidantのプエルトリコ子会社及びアイルランド子会社が本来得るべきより多額の利益を得ていたというものです。その際IRSはCPMという算定方法を用いて、プエルトリコ及びアイルランド両子会社が得るべき利益率を各々コスト+13.9%、コスト+11%と算定しました。両子会社の所得はそれら“得るべき利益”を大幅に上回っていたため、実質的にプエルトリコ子会社は売上高の67%を、アイルランド子会社は同80%をロイヤルティとしてGuidantの米国本社に払うと同等の更正が行われたようです。これに対し納税者側は今年3月11日付で租税裁判所に提訴し、プエルトリコ、アイルランドの両子会社は2001~2002年当時、米国本社からライセンスを受けて無形資産の開発にも貢献していたのであり、(コストプラスの限定された所得を得るべきとされる)受託製造会社には当たらない事を主張しています。
 更にIRSは、ボストン・サイエンティフィック社のもう一つの子会社であるCardiac Pacemaker社(元Guidant社の子会社)に対しても、2003年度において4.8億ドルの移転価格更正を同様な理由により行い、これによりボストン・サイエンティフィック社グループに対する移転価格更正額は合計約15億ドルに達しています。

2. Medtronic

一方、ボストン・サイエンティフィック社のライバルである米国医療機器大手のメドトロニック社も、同じ2010年12月にIRSから、2005~2006年度に関し27億ドルという巨額の更正課税通知を受けました。内訳は、14億ドルが移転価格に関する更正で、13億ドルが内国歳入法965条(2005年の1年間に限り、海外関連会社の利益を配当として米国に還流させた場合、それらを国内再投資に用いる等の条件付で大幅に免税するという時限立法)に基づく更正となっています。移転価格に関してはボストン・サイエンティフィック社と同様、心臓及び神経系医療機器の製造を行うプエルトリコ子会社を、無形資産を有しない単なる受託製造子会社と認定し、受託製造子会社が本来得るべき限定的な所得を上回っている部分を米国本社がロイヤルティとして計上すべきとした更正が約12億ドルで大半を占めています。

3. AstraZeneca

英国の大手製薬会社であるアストラゼネカ社は今年3月28日、2000~2010年度に関する移転価格税務調査に関してIRSと和解し、11億ドルの追加税額を支払ったと発表しました。税額で11億ドルということから、所得ベースでは20~30億ドル近くの更正をされていると推定されますが、更正の詳細は不明です。アストラゼネカ社は英国税務当局に対しても、2010年に約5億ポンド(7.8億ドル)の移転価格税額支払いで和解しており、英米両国で巨額の追加税額を支払ったことになります。ちなみに英国の製薬会社としては、2006年にグラクソ・スミスクライン社がIRSと和解し、31億ドルという世界最大の移転価格税額支払いを行っています(英国でも税務当局と和解し追加税額<金額は非開示>を支払済み)

米国公認会計士 三村琢磨 (2011年5月)

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